「ちょっと変わった気がする」— GW明けにこそ、夫婦で話したい親の老後のこと

連休が終わって、いつもの平日が戻ってきました。実家に帰省した家庭では、ふとした瞬間に「親、ちょっと変わったかも」と感じた方もいるかもしれません。料理の味つけ、物の置き場所、繰り返される話題。気のせいかもしれない。でも、なんとなく心に引っかかる。そんなとき、急いで何かを決める必要はありません。まずは夫婦で、その気がかりについて話してみるところから始めてみませんか。
「ちょっと変わった気がする」を、否定も拡大解釈もしないために
帰省中によく耳にするのは、料理の味つけが少し変わった、片付けの仕方がいつもと違う、同じ話を何度か繰り返す、表情がいつもより固い、といった「小さな違和感」です。ひとつずつは些細でも、いくつか重なると気になりはじめます。
ここで大切にしたいのは、否定も拡大解釈もしないこと。「久しぶりに会ったから、そう感じるだけ」と打ち消すのも、すぐに病名と結びつけてしまうのも、どちらも少しもったいない反応です。
参考までに、厚生労働省は軽度認知障害(MCI、年齢相応を超える物忘れがあっても日常生活は自立している状態)について、5つの要件で定義しています。MCIから認知症に進む方がいる一方で、生活習慣の見直しなどによって健常な状態に戻るケースもあるとされています。決めつけずに、変化をていねいに観察し続ける意義は、ここにあります。
帰省中に気づいたことは、スマホのメモに短く書き残しておくだけで十分です。「いつ・どんなことがあったか・どう感じたか」を一行ずつ。次に会ったときと比べる材料があるだけで、「気のせい」で消えてしまいがちな違和感を、家族の対話のための素材として手元に残せます。
親に話す前に、まず夫婦で話してみる
気づいたことを、いきなり親に確かめたくなるかもしれません。けれど最初の一歩としておすすめしたいのは、夫婦で話してみることです。
理由はシンプルで、自分の親と配偶者の親では、感じる温度に差が出やすいからです。自分の親の小さな変化は気になるけれど、配偶者の親には踏み込みづらい。逆もまた起こります。「気づいたこと」をまず二人のあいだで共有しておくと、いざ親と話す段階で、夫婦の足並みが揃いやすくなります。
内閣府男女共同参画局の調査(平成27年度委託調査)では、子育てと介護を同時に担う「ダブルケアラー」は約25万人、その約8割が30〜40代と推計されています。子育てと並行して親のことを気にかける状況は、決して例外ではなく、いまの30〜40代にとって典型的なライフステージのひとつです。
「うちはまだ話せていないな」と感じる方も、安心していい部分があります。複数の親子意識調査では、介護について親や家族と「話し合っていない」と答える人が約8割。介護が始まる前に話したことがある率は、60代の女性でも20.8%が最大値だといいます(SOMPOホールディングス、ソニー生命などの関連調査)。話せていない家庭のほうが、むしろ大多数なのです。
アクサ生命「介護に関する親と子の意識調査2019」では、介護未経験の40〜50代が抱える不安の上位は、介護費用54.4%、自分の仕事への影響44.4%、自分の精神状態36.4%。いずれも「あらかじめ夫婦で見通しを共有しておく」だけで、ぐっと軽くなる類の不安と言えそうです。
寝かしつけのあと、週末の散歩、通勤途中の電話。長く話す必要はありません。「帰省したとき、こんなこと感じたんだけど」と切り出す、たった5分の時間。それが、家族の作戦会議の最初の一歩になります。
親が元気なうちに、聞いておきたい5つのこと
夫婦で気づきが共有できると、いずれは親自身と話す機会が出てきます。
ここで一つ、印象的な数字があります。親子の意識調査では、親世代の約7割が「住み慣れた自宅で生活したい」と希望しているのに対し、子世代の予測は「自宅」と「施設」で拮抗しています。親がどのような介護を望んでいるかを「知っている」と答える子は、約3割にとどまるというデータも。直接聞いてみないと、親の希望は意外と見えていないものなのかもしれません。
厚生労働省「仕事と介護 両立のポイント」は、介護が始まる前の段階で家族が知っておくと役立つ情報を整理しています。大きく5つに分けて整理してみましょう。
- 健康のこと: かかりつけ医、服用している薬、健康診断結果の保管場所
- 重要書類のありか: 介護保険証・健康保険証・年金関連書類の保管場所
- お金のあらまし: 年金や預貯金の概況、加入している保険の有無。金額を細かく聞き出す必要はなく、「いざというときに困らない情報の在処」を共有してもらう発想で十分です
- 暮らしの希望: いまの家に住み続けたいか、これからをどう過ごしたいか
- 人とのつながり: 親しいご近所、頼れる親戚、地域とのかかわり
切り出し方には、少しコツがあります。複数の介護メディアに共通する助言は、「介護」という言葉から入らないこと。「最近、体調どう?」「困っていることない?」というように、ふだんの会話の延長から入るほうが、親側の身構えが少なくなります。テレビのニュースや帰省の余韻から自然につないでもよいでしょう。
聞き出すこと自体は目的ではありません。「自分の暮らしを大事にしてもらえている」と親が感じられるかどうか。そこに重きを置くと、対話のリズムは穏やかなものになります。
兄弟姉妹がいるなら、近況交換から/一人っ子なら、配偶者と段取りを
兄弟姉妹がいる場合、最初から「役割分担会議」を開こうとすると、誰かに負担が偏る話になりやすく、関係の摩擦が生まれがちです。まずはLINEや電話で「最近の親の様子」を共有するだけのほうが、はるかに続きやすい。「正月に会ったとき、お父さんが◯◯って言ってた」「最近お母さん、こんな感じみたい」。気づきを持ち寄るうちに、誰がどこに住んでいて、それぞれどんな事情を抱えているかが、自然に見えてきます。
一人っ子の家庭では、状況が少し異なります。「自分が一人で背負わなくては」というプレッシャーを抱えやすいぶん、配偶者と「どこまで自分で背負うか」を最初から決めすぎないほうが、結果として無理が少なくなります。配偶者の親と自分の親、両方の温度感を共有する。地域包括支援センター(お住まいの自治体ごとに設置されている、高齢者の総合相談窓口)といった社会資源の存在を、夫婦の前提知識にしておく。一人で抱え込まないための足場を、いまのうちに少しずつ用意しておく感覚です。
アクサ生命の調査で印象的なのは、60〜70代の親が子に望む介護内容のトップが「話し相手になる」(77.2%)だったことです。「介護=身体の世話」と構えがちな子世代に対して、親側はむしろ、ふだんからの時間と会話を求めている傾向がうかがえます。兄弟姉妹がいるかどうかにかかわらず、これはどの家庭でも始めやすい一歩です。
老後の地図は、一度に描こうとしない
厚生労働省は、「人生会議(ACP、アドバンス・ケア・プランニング)」という考え方を広めています。もしものときに望む医療やケアについて、家族や医療・ケアチームと前もって繰り返し話し合い、共有しておく取り組みです。1回の家族会議で全部を決める場ではなく、節目ごとに更新していくプロセスとして位置づけられているのが特徴です。
つまり、老後の地図は、一度に描こうとしなくていい。親の人生もこれから先で変わっていきますし、自分たちの暮らしもまた変わっていきます。介護経験者を対象にした調査では、約7割が「事前に準備をしておくべきだった」と回答し、後悔項目では「親との日頃からのコミュニケーション・希望のすり合わせ」が53.6%と上位に挙がっていました(オールアバウト、2018年)。準備とは何かを決めきることではなく、対話を続けていくこと、そのものなのかもしれません。
GW明けの今日、できることはとても小さくて構いません。寝かしつけのあと、配偶者に「帰省したとき、こんなこと感じたんだけど」と話してみる。そのひとことで、家族の対話は静かに始まっていきます。
5月10日の母の日も、もうすぐです。プレゼントを選びながら、あるいは電話の向こうの声に耳を澄ましながら、いつもより少しだけ「お母さん、最近どう?」を丁寧に交わしてみる。それは「ありがとう」を伝える日に、もう一歩踏み込んだ対話への、自然な入口になっていきます。
memStock編集部
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