「小1の壁」は、実は夫婦の壁? — 共働き家庭が入学後に気づく本当の課題

「保育園のときは19時まで預けられたのに、学童は18時まで」——。4月、小学校に上がった子どもを持つ共働き家庭から、こんな声がよく聞こえてきます。時短勤務の制度も、入学と同時に終わってしまう家庭が少なくありません。いわゆる「小1の壁」です。対策リストはあちこちで目にしますが、実はこの壁、ひとりで乗り越えるものではありません。家族全員のコミュニケーションで向き合うテーマとして、少し立ち止まって考えてみます。
「小1の壁」って、具体的に何が起きるの?
「小1の壁」とは、子どもの小学校入学をきっかけに、共働き家庭が直面する生活と働き方のギャップのこと。保育園時代にはなかった、いくつもの「段差」が一気に現れます。
預かり時間の段差
保育園の延長保育は19時や19時半まで対応している園が多い一方、公立学童保育(放課後児童クラブ)の預かりは18時までが一般的です。フルタイム勤務で17時半に退社しても、通勤時間を考えると迎えに行けるのは18時半前後。公立学童の時間内に間に合わない家庭が少なくありません。
時短勤務が「法律上は終わる」
育児・介護休業法で事業主に義務づけられている短時間勤務制度の対象は、「3歳未満の子を養育する労働者」です。2025年10月の法改正で「3歳〜小学校就学前」も企業が複数の両立支援措置から2つ以上を選んで実施する義務が加わりましたが、時短勤務自体が必須というわけではありません。そして、小学校入学後は法的な義務がなくなります。つまり、小学校に上がった瞬間、法律で守られていた時短勤務の土台が消えてしまうわけです。
学童に入れない家庭も
こども家庭庁の「令和6年 放課後児童健全育成事業の実施状況」によると、2024年5月時点の学童保育の待機児童数は18,462人で、前年比2,186人増。5年ぶりに過去最多を更新しました。登録児童数も約151万5,000人と過去最高です。「申し込んだのに入れなかった」という声は、もはや珍しい話ではありません。
学童保育、実際いくらかかる?
「小1の壁」を語るうえで、避けて通れないのがお金の話です。公立学童と民間学童では、費用に大きな差があります。
| 区分 | 月額の目安 | 特徴 |
|---|---|---|
| 公立学童(放課後児童クラブ) | 4,000〜6,000円が中心 | 全国の約8割が月1万円未満。預かりは18時までが多く、夏休みは弁当持参が基本 |
| 民間学童 | 30,000〜50,000円以上 | 送迎や英語・プログラミングなどの習い事付きも。長時間預かりや長期休暇対応で追加費用がかかる場合あり |
年間コストで見ると、公立学童は年6万円弱、民間学童(送迎・習い事付き)は年60万円前後。差額は年間約54万円にもなります。保育園時代は幼児教育・保育の無償化で負担が軽かった分、「小学校に上がった途端、学童代で家計が変わった」と感じる家庭は多いはずです。
学童以外の選択肢として、習い事と組み合わせて放課後を埋める、ファミリー・サポート・センター事業を使う、祖父母に協力してもらうといった方法もあります。ただ、どれも「確実に毎日」というわけにはいきにくく、複数の手段を組み合わせて設計することが前提になります。
働き方、見直すならどこから?
「小1の壁」に立ち向かうとき、大事なのは対策を増やすより、「どの前提を動かせるか」を家族で確認することです。
自分の会社の制度を棚卸しする
2025年10月の育児・介護休業法改正で、3歳から小学校就学前までの子どもを持つ従業員向けに、企業はフレックスタイム制、月10日以上のテレワーク、短時間勤務、年10日以上の養育両立支援休暇などの中から2つ以上を選んで実施する義務を負いました。企業ごとに選ばれている制度は異なるため、「自分の職場でどの措置が使えるか」の確認が最初の一歩になります。週1〜2日のテレワークや始業時間の繰り下げだけでも、送迎のやりくりは大きく変わります。
自治体の新しい動きも要チェック
東京都中野区では、2026年4月から区立小学校で平日朝7時半〜8時15分の見守り事業をスタート。土曜日や夏休みの学童も7時半開始に前倒ししました。区の保護者アンケートで「朝の早い時間帯の受け入れ」を希望する声が34%に上ったことが背景にあります。豊島区でも一部の小学校で朝の学童の試験導入が進むなど、「朝の壁」対策が自治体レベルで動き始めています。住んでいる地域の制度を一度調べてみると、思わぬ助けが見つかるかもしれません。
子どもにも「小1の壁」はある
ここまでは親の視点で見てきましたが、忘れてはいけないのは、子ども自身にも大きな変化が訪れていることです。
登下校は自分で。時間割や宿題、持ち物の管理も自分で。クラスには新しい友達、授業には初めてのルール。学童という新しい居場所にも慣れなくてはいけません。大人が「17時半退社では間に合わない」と焦っているとき、子どもは子どもで、初めてづくしの毎日に緊張しています。
「学校つまらない」「学童行きたくない」という言葉が出てきたら、親のスケジュールの焦りとは切り離して受け止めたいところです。親の不安は、子どもに思った以上に伝わります。まずは夕食のときに10分、今日あったことを聞く時間を意識して作るだけでも、子どもの安心感は変わってきます。
「壁」を、家族で話し合うきっかけに
最後にもう一つの数字を紹介します。総務省の社会生活基本調査によれば、6歳未満の子どもがいる共働き夫婦の1日あたりの家事・育児関連時間は、妻が7時間28分、夫が1時間54分。その差は5時間を超えます。
この数字は、誰かを責めるためのものではありません。ただ、小学校入学というタイミングは、家族の時間の使い方を見直す自然な節目でもあります。保育園時代のやりくりがそのまま通用しないからこそ、「誰が何を担うか」をもう一度フラットに話し合う余地があるわけです。
入学前後に、家族で話しておきたいのはたとえばこんなことです。放課後をどう過ごすか。送迎を曜日ごとにどう分担するか。学校から連絡が来たとき、誰が一次対応するか。完璧な答えを出す必要はありません。「うちはこうしてみよう」と決めた小さなルールが、家族の安心につながっていきます。
「小1の壁」は、たしかに高い段差です。でも、その段差を前に家族で立ち止まり、言葉を交わす時間そのものが、これからの暮らしの土台になっていくはずです。対策リストを増やす前に、まず一度、食卓で話してみませんか。
出典
- こども家庭庁「令和6年 放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)の実施状況」
- 厚生労働省「短時間勤務等の措置|育児休業制度特設サイト」
- 総務省統計局「令和3年社会生活基本調査 詳細行動分類による生活時間に関する結果」
- 内閣府男女共同参画局「第1節『家事・育児・介護』と『仕事』のバランスをめぐる推移」
- 日本経済新聞「学童の待機児童1.8万人で最多 『小1の壁』なお深刻」
- 日本経済新聞「東京都中野区、土曜や夏休みの学童を7時半開始 小1の壁対策」
- 東洋経済オンライン「『17時半退社では間に合わない』— 共働きの母親が語る《小1の壁》」
- NTT東日本「【2025年改正|育児介護休業法】時短勤務の新ルールと企業の対応策を徹底解説」
- 学童ナビ「学童保育とは?月の平均料金は?」
- ウィズダムアカデミー「学童保育料金の相場は?公立や民間学童など種類ごとの特徴も解説」
memStock編集部
memStock編集部は、家族の豊かな暮らしと家計管理を応援する記事制作チームです。ライフハック・節約・投資・保険など、日常生活とお金に関する実用的な情報を、確かな専門知識と多様な視点から分析・提供しています。読者の皆様が抱える日々の悩みや将来への不安を解消し、ワンランク上の生活を実現するためのヒントが詰まった記事をお届けします。 「家族の暮らしをより豊かに」をモットーに、わかりやすく実践的なコンテンツで皆様の人生設計をサポートします。



