「AIで教育が変わる」のか

教育・学校memStock編集部(更新: 2026年9月13日
「AIで教育が変わる」のか

子どもが書き上げた文章が、机の上にあります。文章は整っていて、構成にも破綻がない。よくできている、と思う一方で、どこまでが本人の手によるものなのかは、少し分かりにくい。

この戸惑いは、家庭だけのものではないようです。同じことが、2026年に公表された国際機関の報告書と、国の会議に出された資料に、はっきりした言葉で書かれています。

「最終成果物だけを見る評価は、不十分になりつつある」

OECD(経済協力開発機構)は2026年1月19日、『Digital Education Outlook 2026』という報告書を公表しました。その第2章は、人間の技能をどう育て、どう評価するかを扱っています。章の表題そのものに、評価(assessment)という語が入っています。

本文の54ページに、こう書かれています。

生徒が学習に生成AIを使うことが増えるにつれ、最終成果物だけに着目する従来型の評価モデルは不十分になりつつある。学習過程にほとんど関与しないままでも質の高い成果物を作れるようになると、評価は人間の技能や理解ではなく、技術の習熟度を測ってしまう危険がある。

よくできた成果物が、必ずしも本人の力を映しているとは限らない。それを、国際機関が報告書の本文に書いています。同じ章の少し先、58ページには「見せかけの習熟(mirage of false mastery)」という言い方も出てきます。質の高い成果物が、その裏にある技能の弱さを覆い隠してしまう状態を指した言葉です。

報告書の要旨は、政策の課題は生成AIを「学習の近道」ではなく「学習のパートナー」にすることだ、と結んでいます。

国の資料には、「評価」がこれから書き足す項目として並んでいます

2026年6月30日、中央教育審議会初等中等教育分科会のデジタル学習基盤特別委員会(第10回)に、「学校におけるAI活用の現状等について」という資料が提出されました。その23ページに、生成AIのガイドラインをVer.2.1へ改訂してはどうか、という提案と、検討項目の案が6つ並んでいます。

そのうちの5番目、「学習活動で利活用する場面」には、こう書かれています。

・過度な学習過程のショートカットへの対応(認知的オフロードの発生による深い学びを阻害している例等) ・AIに関連した学習課題の提示や評価に関する考え方

認知的オフロードは、考える手順を自分の外に預けてしまうこと、と言い換えられます。計算を電卓に、道順を地図アプリに任せるのと地続きの言葉で、それ自体が悪いという意味ではありません。資料が挙げているのは、それが「過度」になっている例への対応です。

ここは慎重に読む必要があります。資料の文末は「ガイドラインを改訂してはどうか」であり、6つの項目にはすべて「(案)」が付いています。2026年8月時点で公表されている最新版は、令和6年12月26日のVer.2.0のままです。委員会もこの第10回が最新で、その後の開催は告知されていません。

つまり、決まったのは中身ではありません。「評価」という語が検討の卓に載った、というところまでです。

同じ実験のなかに、上がった結果と下がった結果が両方ありました

なぜ評価の話が出てくるのか。手がかりの一つが、2025年に『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』に掲載された査読済みの論文です。タイトルは "Generative AI without guardrails can harm learning"。日本語にすると「ガードレールのない生成AIは学習を害しうる」。「AIは学習を害する」ではなく、条件のほうがタイトルに入っています。

実験はトルコの高校1校で、2023年秋に行われました。9〜11年生およそ1,000名を、教室単位のくじ引きで3つのグループに分けています。ノートと教科書だけを使うグループ、ChatGPTに近いふつうのチャット型AIを使うグループ、そして答えを教えず段階的なヒントだけを返すよう教師が設計したAIを使うグループ。数学の演習を90分×4回、行いました。

AIを使ってよい演習の得点は、ふつうのチャット型AIを使ったグループが使わなかったグループより48%、設計されたAIを使ったグループは127%高くなっています。ところが、そのあと資料も端末も使わずに解く試験では、ふつうのチャット型AIを使っていたグループだけが17%低い点でした。設計されたAIを使ったグループには、その低下は見られませんでした。大きく上がった結果と下がった結果が、同じ実験の中に両方あります。

著者自身も限界を書いています。トルコの高校1校、数学という1教科、実施は2023年秋で生成AIが登場して間もない時期、そして短期的な成果しか見ていないこと。日本の小中学生に当てはめられる結果ではありません。

考える手順を外に預けるという現象そのものを調べた研究も、いくつか出ています。米国在住の成人246名に、AIを使って法科大学院入試の論理問題を解いてもらった実験があります。2026年の『Computers in Human Behavior』に掲載されたもので、得点は上がった一方、参加者は自分の正答数を実際より4問ほど多く見積もっていました。中国の大学生38名を対象にした2025年の実験では、汎用のAIを使った学生の一部が、示された解決策をそのまま実行し、吟味ややり直しの段階を飛ばしていました。

ただし、これらの研究の対象は、平均およそ40歳の成人と、平均22.7歳の大学生です。小中学生を対象にした同種の研究は、確認できる範囲では見当たりませんでした。「子どももそうなる」と読むことはできません。

測り方も位置づけも、AIとは別の理由で動いています

ここで、AIとは無関係の事実を一つ並べておきます。全国学力・学習状況調査は、令和9年度(2027年度)からCBT——紙ではなく端末で受けるやり方——に全面移行することとされています。文部科学省が令和8年6月に改定した資料には「令和9年度以降、CBTに全面移行することとする」と書かれ、小学校の国語・算数、中学校の国語・数学を4日間に分散して実施する日程まで示されています。

これはAIへの対応として始まったものではありません。CBT化の検討が始まったのは令和2年(2020年)で、生成AIが広く使われるようになるより前です。背景にあるのは1人1台端末の整備で、AIが採点するという話でもありません。

すでに動いている部分もあります。令和8年度(2026年度)の調査では、中学校英語が端末で実施されました。実施要領では、「話すこと」はヘッドセットを使って20分程度、分散しての着席で行うこととされています。結果は、受けた問題が違っても同じものさしで比べられるようにする方法にもとづくスコアで返され、文部科学省はこれを「児童生徒一人一人の学力・学習状況が細やかに分かる結果の示し方」と説明しています。

国の外でも、線の引き直しがありました。韓国では2025年8月14日、初・中等教育法の改正が公布・施行されています(法律第21013号)。教科用図書の定義と範囲が法律に直接書き込まれ、あわせて「教育資料」の規定が新設されました。「知能情報技術を活用した学習支援ソフトウェア」——AIを使った学習支援ソフト——は、教科書ではなく教育資料と位置づけられ、学校長が学校運営委員会の審議を経て活用できるものになりました。教科書と違い、教育資料は学校ごとの判断で使うものです。

改正理由の文書が第一に挙げているのは、憲法が教育制度は法律で定めると規定しているのに、デジタル教科書の根拠が法律ではなく政令に置かれていた、という点です。学習効果の検証結果が理由に挙げられているわけではありません。日本が同じ道を通るかどうかも、この文書からは言えません。分かるのは、AIを使う教材を制度のどこに置くかという問いに、一つの国が法律で答えを出した、という事実です。

家庭の側から見えること

6月30日の資料には、参考として有識者のコメントを載せたページがあります(27ページ)。児童生徒がAIを使った学習場面について挙げられた懸念のなかに、こういう一節があります。「AIの提案を受けて何を採用し、何を採用しなかったのかなど、学習者自身の判断が読み取りにくい」。読み取りにくい、という言い方が、いまの状態をよく表しているように見えます。

ここまでに並べた文書は、立場も国も目的もばらばらです。それでも、向いている方向はそれほど違いません。できあがったものだけを見て「どれくらい身についたか」を判断できる範囲が、以前より狭くなった。だから測る側は、成果物の手前で何があったのかを見に行こうとしている。国際機関はそれを報告書に書き、国は検討項目に「評価」という語を置きました。

これは学校とテストの話ですが、家庭にも届きます。机の上に置かれた一枚を前にして、仕上がりのほかに見えるものは、そう多くありません。途中で何につまずいて、何を選んで、何をやめたのか。そういう話は、その場では交わされても、たいてい残らないまま流れていきます。

「AIで教育が変わる」というニュースは、これから何度も出てくるはずです。次にそれを見たとき、決まった話なのか、まだ案の段階の話なのか。その一点を確かめるだけでも、受け取り方は少し変わるのではないでしょうか。

本記事は2026年8月27日時点で公表されている各資料によります。ガイドラインの改訂検討や調査の実施要領は今後変更される可能性があるため、最新の内容は各機関の公式サイトでご確認ください。

よくある質問

生成AIで作った成果物を見るだけで学力評価はできるのか?
できません。OECDの報告書では、成果物だけの評価は本人の理解や技能が見えない『見せかけの習熟』を招くと指摘しています。
生成AIを使うと学習効果は高まるのか、低下するのか?
設計次第です。ふつうのチャット型AIでは試験成績が17%低下した一方、段階的ヒントを返すAIでは低下が見られませんでした。
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