学校で生成AIを使っているのは、子どもだけではありませんでした — 職員室で起きていること

二学期が始まる頃、学級通信や担任からのお便りが家に届き始めます。学校ホームページの更新を知らせるメールが来ることもあります。それを開いて「これは生成AIで書かれたのだろうか」と考えることは、たぶんまだありません。
けれど文部科学省が公表している数字を順に追っていくと、はっきり見えてくるのは、教室のほうではありませんでした。職員室の側です。
「全く活用していない」学校は、2年で77%から16%になりました
文部科学省は毎年、全国の公立の小中学校などに「校務DXチェックリスト」という自己点検を求めています。2025年度(令和7年度)分は2025年11月5日から12月10日にかけて行われ、公立義務教育諸学校28,049校が回答しました(回答率98.6%)。設問は「『初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン』に基づき生成AIを校務で活用していますか」で、4つの選択肢から選ぶ形です。
「全く活用していない」と答えた学校の割合は、2023年度が76.7%、2024年度が58.9%、そして2025年度が16.3%。2年で60ポイント下がりました。ただし2025年度に最も多かった回答は「一部の教職員が活用している(半分未満)」の66.5%で、教職員の半分以上が使っていると答えた学校は17.2%にとどまります。
ここでの主語は「学校」であって、先生ひとりひとりではありません。学校としてひとつの回答を選んだものです。しかも文部科学省は「回答の精度を確認する等のデータクリーニングは行っていません」「地方公共団体間の結果を単純比較できるものではありません」と資料に明記しています。調査というより、学校が自分で点検して答えたもの、と読むのが正確です。
国が指定した学校の内訳に、偏りがありました
文部科学省は「生成AIパイロット校」として、実証に取り組む自治体と学校を毎年指定しています。2026年度(令和8年度)の内訳は次のとおりです。
- 教育利用:10自治体・33校
- 校務利用:100自治体・261校
- 教材実証:51自治体・146校
区分をまたいで重複して指定されている自治体・学校もあります。
授業などで子どもが使う「教育利用」で指定された自治体は10。先生が校務で使う「校務利用」は100。自治体の数で10倍、学校の数でも約8倍の開きがあります。
これは実際に使われている量ではなく、国が指定した数です。それでも、国がいまどちら側で成果と課題を確かめようとしているかは、この内訳にそのまま表れています。
削られているのは、どんな時間でしょうか
文部科学省の資料には、校務で生成AIを使った自治体や学校からの報告が並んでいます。ただし、その資料の見出し自体が「業務の性質や各地域・学校の状況によるが、校務における生成AIの活用は時間削減が起きうる可能性」という書き方です。以下はいずれも、国の実証事業や指定された学校からの報告であり、全国の学校で同じことが起きているわけではありません。
埼玉県新座市の実証では、通知表の所見の素案づくりについて、20名以上の所見に1か月程度かかっていたものが1週間程度になったと報告されています。報告はそこで終わりません。「特別支援学級では個別の教育課程が組まれており、プロンプトを生徒ごとに工夫することで、これまで以上に各生徒の様子を細やかに見取ることができるようになった」と続きます。
兵庫県宝塚市では研修報告書の素案づくりが5〜6時間から1時間程度になり、「自身で作成したものと比較して抜け漏れや穴に気づくことができた」という記述が添えられています。沖縄県石垣市では、アンケートの要約・分析が2時間から30分程度になりました。
これらは、文部科学省が「セキュアな環境」をつくったうえで行った実証研究での報告です。参加したのは、2024年度が石垣市・岩倉市・新座市・宝塚市の4市、2025年度が嬉野市・新座市・宝塚市。自治体が個別に契約し、成績のような重要度の高い情報も扱えるように整えた環境の上での結果でした。一般に公開されている生成AIサービスでは成績情報などを入力できず、そこが校務で使ううえでの壁になっている、と文部科学省の資料は書いています。
指定された学校からの報告もあります。東京都の八丈町立富士中学校では、学習指導案の作成が90分から約30分になりました。ただし原文は「事前に作成していたプロンプトをもとに、担当教員が期待する6〜8割程度の完成度で出力ができ、出力結果をもとに作成することで作業効率が改善」です。AIが完成品を出しているわけではありません。
神奈川県川崎市では、私立高校を受験する際の奨学金や補助金制度の情報収集が1時間程度から20分程度になったと報告されています。こちらも「ファクトチェックが必要ではあるものの」という条件つきです。
先ほどの校務DXチェックリストには、もうひとつの数字があります。生成AIの項目について「教職員の働き方の改善に効果があった」と答えた学校は、肯定的な回答を合わせて約99%。ただしこれは、生成AIを教職員の半分以上が使っていると答えた学校、つまり全体の17.2%に限って聞いた結果です。2024年度も97%で、割合そのものはほとんど変わっていません。
国際比較の数字は、別のことを聞いていました
OECDが2024年に行ったTALIS(国際教員指導環境調査)は、教員ひとりひとりにこう尋ねています。「過去12か月の間に、AI(人工知能)を授業で、又は生徒が学習しやすくするために使いましたか」。「はい」と答えた日本の中学校教員は17.4%で、OECD平均(27か国・地域)は36.3%でした。日本では2024年2月から3月にかけて、全国201校の教員3,558名が回答しています。
なお文部科学省は、この調査について「TALISは質問調査であり、社会的・文化的な文脈等の影響を受ける可能性があるため、国際比較には留意が必要」と注記しています。国内の数字と食い違って見えるのも、聞いているものが違うからです。TALISが尋ねたのは2024年の初めに教員ひとりひとりへ、授業や子どもの学習支援での「AI」の使用であり、生成AIに限った質問ではありません。
校務DXチェックリストのほうは、2025年の終わりに学校へ、校務での生成AIの使用を尋ねたものです。同じ「AIを使っているか」でも、聞いた相手も時期も、行為そのものも別のものでした。
同じTALISには、別の数字もあります。「AIは事務的業務の自動化に役立つ」と考える日本の中学校教員は73.1%で、OECD平均の44.9%を上回りました。小学校でも79.1%で、こちらの比較対象である参加12か国・地域の平均は55.0%です。
授業で使っている割合は国際的に見て低く、事務作業に役立つと考える割合は高い。この2つが同時に成り立っています。
出てきた使い方は、最後が家庭に届くものでした
文部科学省の資料に載っている校務での使い方を並べていくと、ある共通点が浮かびます。
茨城県のかすみがうら市立霞ケ浦南小学校では、学校ホームページの記事作成に生成AIを使い、1か月あたりの記事数が2.3倍になりました。奈良市立鼓阪小学校などでは、外国にルーツを持つ子どもが多く在籍しているなか、生成AIとその他の翻訳ツールを使い分けながら、学級通信や学校だよりを翻訳しています。
先ほどの新座市の実証で報告されたのは、通知表の所見の素案づくりでした。そして校務DXチェックリストの資料は、期待される効果のひとつに「保護者向けお知らせ文書のたたき台」を挙げています。
学校ホームページ、学級通信、学校だより、通知表の所見、お知らせの文書。どれも、最後は家庭に届くものです。
ただし、書けるのはここまでです。所見について確認できるのは「素案の作成に生成AIを使った事例が、国の実証事業に参加した自治体から報告されている」ということだけで、全国でどれだけ行われているかを示すデータはありません。「AIが所見を書いている」とも「先生は確認するだけ」とも言えません。八丈町の報告にあったように、出てくるのは6〜8割の完成度のもので、そこから先には人の手が入ります。
パイロット校には、キックオフ会議や全国キャラバンといった学びの機会が用意されています。その全国キャラバンの説明には、こう書かれています。「取組が一部の教員だけにとどまらないよう」。
指定された学校の中でさえ、使う人が一部にとどまりがちだという前提が、ここにあります。校務DXチェックリストで最も多かった回答が「一部の教職員が活用している(半分未満)」の66.5%だったことと、同じことを言っているように読めます。
家庭が「子どもはAIを使っていいのだろうか」と考えている間に、学校の側では別の場所で使われ始めていました。どちらが先かという話ではなく、同じ変化を違う側から見ているだけなのかもしれません。次に学級通信が届いたとき、書かれている内容は変わらなくても、その一枚の見え方は少しだけ変わっているはずです。
本記事の数値は、2026年8月時点で公表されている文部科学省・国立教育政策研究所の資料によります。これらの調査は毎年更新されるため、最新の内容は各資料の公式ページでご確認ください。
よくある質問
- 学校で生成AIは授業以外でも使われているのか?
- はい。『全く活用していない』学校は2023年度の76.7%から2025年度の16.3%に減少しました。多くの学校が校務で活用しています。
- AIで通知表の所見作成は速くなるのか?
- はい。20名以上の所見が約1ヶ月から1週間程度に短縮した例があります。ただし素案作成が対象で、教員による精査が必要です。
memStock編集部
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