高齢の家族を熱中症から守る方法

離れて暮らす親に電話で「エアコンつけてる?」と聞くと「大丈夫」と返ってくる。けれど本当に部屋が涼しいのかは、電話では分かりません。
熱中症で救急搬送される人の半数以上は高齢者で、発生場所でいちばん多いのは住居です。高齢者は暑さやのどの渇きを感じにくいため、本人の感覚に任せず、温湿度計で部屋の温度を数字で確かめ、冷房を使うよう家族が声をかけることが、環境省と厚生労働省が示している対策です。この記事では、2026年10月時点の公的資料をもとに、高齢の家族と子どもを含めた家族全体の熱中症対策を整理します。
熱中症の搬送は2025年に過去最多、半数以上が高齢者
総務省消防庁によると、2025年5月から9月に熱中症で救急搬送された人は全国で10万510人でした。集計を始めた2008年以降で最も多く、2024年の9万7,578人を上回りました。年齢区分では65歳以上の高齢者が約57%、発生場所では住居が約38%で最も多く、道路の約20%を大きく上回っています。入院が必要な中等症・重症は約36%でした。
2026年も、5月1日から9月30日までの速報値で7万7,515人が搬送されています。8月の確定値は2万4,956人で、高齢者が59.1%、住居での発生が39.1%を占めました。屋外の炎天下だけでなく、家の中で過ごす高齢者に搬送が集中する傾向は変わっていません。
亡くなる人も高齢者に偏っています。厚生労働省の人口動態統計では、2025年の熱中症による死亡数は1,610人で、そのうち65歳以上が1,355人、84.2%でした。
高齢者が熱中症になりやすい理由
環境省の「熱中症環境保健マニュアル2022」は、高齢者が熱中症にかかりやすい理由として、「暑い」と感じにくくなること、発汗量や皮膚の血流が増えるのが遅れること、体内の水分量が減ること、のどの渇きを感じにくくなることを挙げています。皮膚の温度センサーの感度が年齢とともに鈍り、暑さに気づいて冷房をつけたり服を脱いだりする行動が遅れます。
同じマニュアルは、夏の70歳以上の高齢者の居室は若い人より室温が2℃ほど高く、31〜32℃に達しているという報告を紹介しています。高齢者は冷房の使用時間が短く、使うときも設定温度が高いためで、体の冷えを嫌うことや節電の意識に加え、暑さを感知しにくいことも一因だとしています。
「暑くない」という本人の言葉は、こうした体の変化の結果である場合があります。説得の材料には、本人の感覚ではなく、温湿度計に表示される部屋の温度を使うほうが伝わりやすくなります。
離れて暮らす親の部屋で、家族ができること
環境省と厚生労働省が2026年4月に関係団体へ出した高齢者の見守り・声かけの依頼は、高齢者は暑さを感じにくいため、WBGT計や温湿度計を使って室内温度を一定に保つこと、エアコンを積極的に使い、その際は直接肌に風が当たらないようにすることを呼びかけています。
マニュアルは、高齢者の部屋に温湿度計を置き、周囲の人も協力して室温をこまめに確かめ、暑い日には冷房で室温をほぼ28℃前後に保つよう求めています。この28℃は部屋の温度の目安で、エアコンの設定温度ではありません。湿度が高いと同じ気温でも危険が増すため、温度と湿度の両方が表示される計器が向いています。
見守る側が確かめる点として、マニュアルは次の3つを挙げています。
- 体調:元気か、食欲はあるか、熱はないか、脇の下や口の中が乾いていないか
- 具合:体重、血圧の変化、心拍数、体温
- 環境:世話をする人がいない間の過ごし方、部屋の温度や湿度、風通し、換気、日当たり
水分は、のどが渇かなくても早めに取るよう声をかけます。高血圧や糖尿病などで治療中の人は、水分や塩分の取り方をかかりつけ医と前もって相談しておくよう、国の依頼文は求めています。家族が近くに住んでいない場合は、身近な人の協力や介護保険サービスを使って見守れる環境をつくることも、マニュアルに挙げられています。熱めのお風呂に長くつかると浴槽内で熱中症のような状態になることがあるため、湯温と入浴時間にも気を配ります。
子どもと家族全体の熱中症対策
子どもも熱中症になりやすい年代です。マニュアルによると、思春期前の子どもは汗腺などの体温調節の働きがまだ十分に発達しておらず、体重のわりに体表面積が大きいため、炎天下では深部体温が大人より上がりやすくなります。晴れた日は地面に近いほど気温が高く、都心で気温が32.3℃だったとき、幼児の身長にあたる高さ50cmでは35℃を超えていたという測定例もあります。車の中に乳幼児を一人で残すことは、短い時間でも避けてください。
子どもは、のどの渇きに応じて自分で水を飲む習慣をつけ、顔が赤くひどく汗をかいているときは涼しい場所で休ませます。2026年8月の救急搬送のうち、7歳以上18歳未満の少年は2,064人、8.3%でした。
症状の重さは、現在はⅠ度からⅢ度の3段階で判断します。立ちくらみやこむら返りはⅠ度で、その場の応急処置と見守りで対応できる軽症です。頭痛や吐き気、だるさが出るⅡ度は病院への搬送が必要な中等症です。少しでも意識がおかしければⅡ度以上として病院へ運び、意識がない場合はすべてⅢ度(重症)として扱います。かつて使われた「熱けいれん」「熱疲労」「熱射病」という呼び方は、この分類の中の症状名として残っています。
応急処置は、涼しい場所に移し、衣服をゆるめ、首の両側、脇の下、足の付け根を冷やすことから始めます。呼びかけへの反応がおかしいときは救急車を呼び、無理に水を飲ませないでください。自分で水分を取れない、処置をしても症状がよくならない場合も、医療機関に運びます。
経口補水液は「脱水のとき」に使う食品
経口補水液は、消費者庁の許可を受けた特別用途食品(病者用食品)です。2023年5月19日に「経口補水液」の許可区分ができ、許可を得ずに「経口補水液」と表示していた清涼飲料水は、2025年5月末までに対応を終えることとされました。許可を受けた製品は2025年度末時点で44製品です。
消費者庁の説明では、許可基準型の経口補水液は、感染性胃腸炎による下痢・嘔吐の脱水状態のときに、水と電解質を補うための食品です。脱水を伴う熱中症に適した製品は、別に個別評価型として許可されています。どちらも、脱水状態でない人が日常の水分補給として飲むものではありません。ナトリウムが多い製品を脱水でない状態で大量に取ると、ナトリウムの取り過ぎにつながるおそれがあると、消費者庁は注意を促しています。
医師からナトリウムやカリウムの制限を指示されている人は、必ず医師に相談してから使います。環境省のマニュアルは、大量に汗をかいたときの水分・塩分の補給には経口補水液やスポーツドリンクなどが適しているとしています。購入するときは、特別用途食品の表示と、どの用途で許可された製品かを確かめてください。
熱中症警戒アラートと特別警戒アラートの見方
熱中症警戒アラートは、府県予報区などの1地点以上で、翌日または当日の暑さ指数(WBGT)が33以上になると予測されたときに、前日17時ごろと当日朝5時ごろに発表されます。2025年(令和7年)の発表回数は1,749回でした。
2024年4月から運用が始まった熱中症特別警戒アラートは、都道府県内のすべての情報提供地点(一部を除く)で翌日の暑さ指数が35以上と予測されたときに、前日14時ごろ発表されます。2026年度の運用期間は4月22日から10月21日までです。
アラートが出た日は、高齢の家族に電話をかけて室温を聞く、子どもの外遊びや部活動の予定を見直す、といった行動のきっかけにできます。親の老後を夫婦で話し合うときの切り出し方は、次の記事でも扱っています。
出典
- 令和7年版 消防白書 トピックス 熱中症対策の推進(総務省消防庁)https://www.fdma.go.jp/publication/hakusho/r7/topics/69550.html
- 熱中症情報(総務省消防庁)https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/post3.html
- 熱中症による救急搬送人員(令和8年9月28日~9月30日速報値)(総務省消防庁)https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/items/r8/heatstroke_sokuhouti_20260928.pdf
- 令和8年8月の熱中症による救急搬送状況(総務省消防庁)https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/items/heatstroke_geppou_202608.pdf
- 年齢(5歳階級)別にみた熱中症による死亡数の年次推移(厚生労働省)https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/necchusho25/dl/R07nenrei.pdf
- 熱中症対策のための高齢者への見守り・声かけについて(厚生労働省・環境省)https://www.mhlw.go.jp/content/001686806.pdf
- 熱中症環境保健マニュアル2022 Ⅲ-2 高齢者と子どもの注意事項(環境省)https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/manual/heatillness_manual_3-2.pdf
- 熱中症環境保健マニュアル2022 Ⅲ-1 日常生活での注意事項(環境省)https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/manual/heatillness_manual_3-1.pdf
- 熱中症環境保健マニュアル2022 Ⅱ-1 どんな症状があるのか(環境省)https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/manual/heatillness_manual_2-1.pdf
- 熱中症環境保健マニュアル2022 Ⅱ-3・4 熱中症を疑ったときには(環境省)https://www.wbgt.env.go.jp/pdf/manual/heatillness_manual_2-3_2-4.pdf
- 熱中症警戒情報及び熱中症特別警戒情報について(環境省)https://www.env.go.jp/content/000391933.pdf
- 経口補水液ってなに?(消費者庁)https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_for_special_dietary_uses/assets/food_labeling_cms206_20230927_06.pdf
- 特別用途食品たる経口補水液と誤認されるおそれのある表示について(消費者庁)https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_for_special_dietary_uses/assets/food_labeling_cms206_241210_20.pdf
- 特別用途食品たる経口補水液の使用方法について(周知依頼、消費者庁)https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/foods_for_special_dietary_uses/assets/food_labeling_cms206_20260713_01.pdf
よくある質問
- 高齢の親の部屋は何度に保てばよいですか
- 環境省のマニュアルは、暑い日は冷房で室温をほぼ28℃前後に保つよう求めています。これはエアコンの設定温度ではなく部屋の温度の目安です。温湿度計を置いて、実際の室温と湿度を確かめてください。
- 経口補水液を毎日の水分補給に飲んでもよいですか
- 消費者庁は、経口補水液は脱水状態でない人が日常の水分補給として飲むものではないとしています。ナトリウムやカリウムの制限を医師から指示されている場合は、使う前に医師に相談してください。
- 熱中症の「熱けいれん」「熱射病」という分類は今も使われていますか
- 現在の重症度はⅠ度(軽症)、Ⅱ度(中等症)、Ⅲ度(重症)の3段階で判断します。熱けいれんや熱失神はⅠ度、熱射病はⅢ度にあたる症状として扱われています。
- 熱中症警戒アラートはいつまで発表されますか
- 2026年度の運用期間は4月22日から10月21日までです。発表状況は環境省の熱中症予防情報サイトで確認できます。
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カリフォルニア州立大学ロングビーチ校卒業後、NTTPCコミュニケーションズでシステムエンジニアとして金融機関等のシステム運用などに携わる。2009年、株式会社エニドアを創業し代表取締役に就任。クラウドソーシングサービスの開発・提供を行う。M&Aにより会社を売却後、上場企業のグループ会社の経営を6年行った後、株式会社modoを創業し代表取締役に就任。家族向けのサービスmemStockの開発を行う。 二級ファイナンシャル・プランニング技能士、証券外務員一種を保有。2児の父。
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