0歳から始められる「こどもNISA」— 教育資金の新しい選択肢を、家族の作戦会議で考える

連休明けの夕食どき、ふと「来年から、教育費の積み立て少し見直そうか」という会話が出た家庭もあるのではないでしょうか。母の日が近づくこの時期は、家族の節目をいつもより少しだけ意識しやすい季節でもあります。そんなタイミングで耳にすることが増えてきた、2027年スタート予定の「こどもNISA」。新しい制度をどう受け止めればよいのか、家族の作戦会議のたたき台として一緒に整理してみませんか。
こどもNISAとは — まずは制度の全体像を整理
こどもNISA(正式名称: 未成年者特定累積投資勘定)は、2025年12月に与党が決定した「令和8年度税制改正大綱」に盛り込まれた、0〜17歳を対象にした非課税の投資制度です。NISAとは、株式や投資信託で得た利益にかかる税金が非課税になる仕組みのこと。2024年に始まった新NISAの、いわば「子ども版」と言える位置づけになります。
開始時期は2027年1月の予定で、口座は親権者などが代わりに開設します。年間に投資できる金額は60万円まで、生涯の非課税保有限度額は600万円。保有期間に上限はありません。対象になる商品は「長期の積立・分散投資に適した一定の投資信託」とされ、現行の新NISAでいう「つみたて投資枠」(毎月コツコツ積み立てる用途の枠)と同じ商品ラインナップが想定されています。
なかでも注目したいのが、引き出し条件の見直しです。かつての「ジュニアNISA」は原則として子どもが18歳になるまで資金を引き出せず、その厳しさが利用低迷の主な要因と指摘されてきました。こどもNISAでは、「その年の3月31日において12歳である年の1月1日以降」に、①子の同意書面、②教育費・生活費など子のための資金であることを示す書面、③親権者の申出書、という3点を金融機関に提出することで、途中で引き出すことができるようになります。
ただし、ここで紹介した内容は税制改正大綱に基づくもので、今後の法案審議で詳細が変わる可能性があります。開始時期も金融業界の準備状況によって前後する可能性があるため、公開時点の最新情報を確認しておきたいところです。
「やるべきか」の前に、家族の家計の優先順位を確かめる
新しい制度が始まると聞くと、つい「枠を埋めなくては」と感じてしまいがちです。けれど、こどもNISAについては、少し立ち止まって家計全体の優先順位を確かめるところから始めたい話だと考えています。
制度上の組み合わせを整理すると、親の新NISA(1人あたり年間360万円・生涯1,800万円)と合わせて、夫婦+子2人のモデル世帯では、家族年840万円・生涯4,800万円の非課税枠が理論上は使える計算になります。とはいえ、これは「制度上の最大値」であり、満額を埋めることが家計のゴールではありません。
教育費の実額を見ると、文部科学省「令和5年度 子供の学習費調査」では、公立中心の進路で幼稚園から高校卒業まで約596万円、私立中心では約1,976万円。日本政策金融公庫「教育費負担の実態調査(令和3年度)」では、高校入学から大学卒業までで子1人あたり942.5万円が必要とされています。
こどもNISAの生涯枠600万円は、こうした教育費の一部をまかなううえで意味のある水準です。一方で、家計には住宅費、親自身の老後資金、いまの暮らしを支える生活費といった、他の大事な役割もあります。多くの専門家の解説でも、「親の新NISAの枠が埋まっていない世帯では、こどもNISAは二次的な選択肢」とする見方が共通しています。
ジュニアNISAが2023年3月末時点で累計約99万口座にとどまった背景には、流動性の制約に加え、「家計の中での優先順位がはっきりしないまま始めにくい」という事情もあったとされます。「全部やる」よりも、「わが家にとって、いま何が一番大切か」から逆算する。家族の作戦会議は、この問いから始めると話が落ち着きやすいかもしれません。
学資保険・預貯金・新NISA — それぞれの役割を整理する
教育費の準備というと、これまでは学資保険や預貯金が定番でした。こどもNISAが加わることで選択肢は広がりますが、どれかを「やめて乗り換える」必要があるかどうかは、それぞれの役割を整理してから判断したい話です。
学資保険の特徴は、契約者である親に万一のことがあった場合に以後の保険料が免除されるという「保険機能」です。複数の保険会社の公表情報やFPメディアの比較によれば、返戻率(払い込んだ保険料に対する受取額の割合)は一般的に103〜118%、払込期間の短縮など条件を満たした商品では127〜129%という例もあります。元本が確保されやすく、計画的に積み立てやすい一方、インフレ局面では実質的な購買力が目減りするリスクがあります。
預貯金の強みは流動性の高さです。急な出費にすぐ対応でき、元本も守られます。代わりに金利は低く、長期で大きく育てる目的には向きません。
新NISAやこどもNISAは、投資信託の運用によって長期で資産が増える可能性がある一方、市場の動きによっては元本割れもあり得ます。一般的に運用期間が長いほど価格変動の影響は平準化されやすいとされ、子どもが小さいうちから始められる点は、こどもNISAの特性によく合っています。
3つは対立する選択肢ではなく、それぞれ「役割が違うパーツ」と捉えるとすっきりします。万一への備え、急な出費への備え、長期の資産形成。家計の現状や夫婦の価値観によって、組み合わせの比率は当然変わってきます。家族の作戦会議では、「乗り換える/やめる」の二択にしないこと。「うちの家計の中で、それぞれをどう組み合わせるか」を話す時間にしたいところです。
なお、すでにジュニアNISA口座を持っている家庭の場合、こどもNISA口座への自動移行はなく、新規に口座を開設する必要があります。既存のジュニアNISA口座は2024年以降、年齢や理由を問わず非課税のまま払い出せるようになっているため、いつ・どう動かすかも、家族で確認しておきたいポイントです。
12歳の引き出し解禁を、親子で話す時間に
こどもNISAでもう一つ印象的なのが、12歳以降に引き出す際に「子の同意書面」が必要とされている点です。手続き上の要件にも見えますが、視点を変えると、家族でお金の話をする機会を制度が後押ししてくれる仕組みとも言えます。
12歳というと、小学校高学年から中学校に上がるころ。お小遣いを自分で管理し始め、将来の進路についてもうっすら考え始める年齢です。同意書を交わすという行為そのものが、「このお金は何のためにあるのか」「これからどう使っていくのか」を親子で言葉にする入口になります。
イメージを持ちやすいように、ごく簡単な試算を一つ。たとえば年3%で運用できたと仮定すると、月3万円を18年間積み立てた場合の最終評価額はおよそ858万円になります。年3%は説明のための仮定値で、過去の運用実績や将来のリターンを保証するものではありません。それでも、こうした数字を子どもと一緒に眺めながら、「この金額を、自分の将来にとってどう使うのが良さそうか」を考える時間は、リターンそのもの以上の意味を持ちうるはずです。
ジュニアNISAが「親の都合で運用し、子は18歳で受け取るだけ」という構造になりがちだったのに対し、こどもNISAでは、途中で家族の対話が組み込まれる設計になっています。教育資金の準備という目的の手前に、家族でお金や進路を話し合う時間が設けられている。そう受け止めると、この制度はただの節税策ではなく、家庭の中で続いていく金融教育の最初の一歩を作る仕掛けにも見えてきます。
おわりに
2027年1月の開始予定まで、まだ準備期間があります。制度の詳細は今後の法案審議のなかで具体化されていくため、いま慌てて結論を出す必要はありません。
大切なのは、新しい制度が増えるたびに「乗り遅れないように」と急ぐのではなく、家族の暮らし全体を見渡しながら、自分たちにとって意味のある形に組み込んでいく姿勢ではないでしょうか。週末の食卓や送り迎えの車中、ふとした会話のなかで「うちの教育費、これからどうしようか」と切り出してみる。家族の作戦会議は、そんな小さな一言から始まります。
連休明けの今日、ほんの数分でいい。夫婦で、あるいは家族で、お金と暮らしの話をしてみる。それは、2027年に届く新しい選択肢を、自分たちらしく受け止めるための準備になっていきます。
* この記事は、制度やお金の仕組みを分かりやすくまとめた「一般情報」です。正しさや最新かどうかは、必ず国や金融機関などの公式情報でご確認ください。投資は元本が保証されず、損をする可能性もあります。個別の判断が必要な場合は、金融機関や税理士などの専門家にご相談ください。
memStock編集部
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