株式投資の損切り、売る前に確かめること

NISAの成長投資枠や特定口座で買った株が、買値を大きく下回ったまま戻らない。「損切り」という言葉は聞くけれど、売れば損が確定するし、持ち続けてよいのかも分からない。家計の中で個別株を持つと、こうした迷いが一度は出てきます。
売るか持つかを、株価の下落率だけで決める必要はありません。売る前に確かめておきたいのは、値下がりの理由、その株がどの口座にあるか(税金の扱いが変わります)、そのお金を何に使う予定か、そして売るならどの注文を使うかの4つです。特に、特定口座の損失はほかの利益や配当と相殺できますが、NISA口座の損失は相殺も繰越もできません。ここでは、国税庁・金融庁・日本取引所グループ(JPX)・日本証券業協会の資料で確かめた範囲で、この4つを順に整理します。制度の内容は2026年10月時点のものです。
値下がりの理由を会社の開示資料で確かめる
株価は、金利・為替・景気・海外市場といった市場全体の要因と、業績などその会社自体の要因の両方で動きます。市場全体が下がった局面では、会社の業績が変わっていなくても株価は下がります。売るかどうかを考える前に、下がったのが市場全体なのか、その会社だけなのかを分けて見ます。
会社自体の状況は、会社が公表する資料で確かめられます。上場会社は四半期ごとに決算を発表し、「決算短信」には売上高や利益、業績予想、配当の予想が載っています。有価証券報告書は、事業の状況や財務状況をまとめた書類で、各事業年度の終了後3か月以内の提出が義務付けられています。どちらも各社のウェブサイトや、金融庁の開示システム(EDINET)、適時開示情報閲覧サービス(TDnet)で読めます。
買ったときに期待していた業績や配当の見通しが、最新の決算で変わったかどうかを見ると、値下がりが一時的な相場の動きなのか、会社の状況の変化なのかを判断する材料になります。
特定口座の損失は利益や配当と相殺できる
上場株式を特定口座や一般口座で売って出た損失(譲渡損失)は、確定申告をすると、その年の上場株式の配当と損益通算できます。それでも引ききれない損失は、翌年以後3年間にわたって、株の売却益や配当から差し引く(繰越控除する)ことができます。ここでいう上場株式等には、上場株式のほか、ETFやJ-REIT、公募の投資信託も含まれます。NISA以外の口座で投資信託を売って出た利益とも、確定申告をすれば相殺できます。
源泉徴収ありの特定口座では、同じ口座の中の売却損益は証券会社が計算し、配当をその口座で受け取る設定にしていれば、口座内の売却損と配当も相殺したうえで税金が源泉徴収されます。一方、別の証券会社の口座の利益と相殺する場合や、損失を翌年以降に繰り越す場合は、確定申告が必要です。繰り越した翌年以降は、株を売らなかった年も、繰越のための申告を続けます。
たとえば同じ年に、A社株を売って20万円の損失、B社株を売って30万円の利益が出たとします(ともに上場株式で、NISA以外の口座)。相殺すると課税されるのは10万円で、税金は20,315円です。相殺しなければ30万円に課税され60,945円なので、差は40,630円になります。税率は所得税・住民税・復興特別所得税を合わせた20.315%で、2027年1月以後に生じる所得は内訳が変わりますが、合計の税率は変わりません。
NISA口座の損失は相殺も繰越もできない
NISA口座で買った株を値下がりした状態で売ると、その損失は、ほかの口座の売却益や配当と損益通算できず、翌年以降に繰り越すこともできません。利益が非課税になる一方で、損失は税金の計算に使えません。
| 口座 | 売却益・配当への課税 | 売却損の扱い |
|---|---|---|
| 特定口座・一般口座 | 20.315% | 確定申告で配当と損益通算、翌年以後3年間繰越控除 |
| NISA口座 | 非課税 | 損益通算・繰越控除はできない |
NISA口座の株を売ると、その株を買ったときの金額(簿価)の分だけ、翌年以降に非課税保有限度額の枠が復活します。たとえば50万円で買った株を30万円で売ると、損失の20万円はどこからも差し引けませんが、翌年以降に復活する枠は買ったときの50万円分です。枠が戻るのは売った年の翌年以降で、売った年のうちに戻るわけではありません。
NISAで持っている株は、売っても損失を税金の計算に使えないため、売るかどうかは次の家計の目的と配分で考えます。
売るか持つかは家計の目的と配分で考える
金融経済教育推進機構(J-FLEC)は、お金を「日常生活に必要なお金」「近い将来に使う予定のお金」「当面使う予定のないお金」に分け、投資は当面使う予定のないお金で行うよう勧めています。値下がりした株の代金を、数年以内に使う教育費や住宅の頭金にあてる予定があるなら、売るかどうかは株価の見通しより、使う時期までに必要な額を確保できるかで決まります。反対に、当面使う予定のないお金であれば、値下がりした時点で急いで売る理由は小さくなります。
日本証券業協会は、資産の価格が上下して当初の割合が崩れたポートフォリオを元の割合に戻す「リバランス」を、年1回など定期的に行う方法を勧めています。リバランスは、割合が大きくなった部分を売るほか、新たなお金で割合が小さくなった部分を買い足すことでも行えます。子どもの誕生や卒業、転職など家族の事情が変わったときは、何にどのくらいの割合で投資するかから見直すよう勧めています。
値下がりした株を買い増して平均の買値を下げる売買は「ナンピン買い」と呼ばれます。買い増すとその1社の比率がさらに高まるので、家計全体の配分の中で、その会社にいくらまで投資するかを先に決めておきます。
逆指値注文の仕組みと限界
売ると決めたあとの注文には、成行注文と指値注文に加えて、証券会社によっては「逆指値注文」があります。逆指値注文は、株価が指定した値段以下に下がったら売る、という条件を付けた注文で、損失を一定の範囲に限定するために使われます。通常の指値注文(〇〇円以上なら売る)と条件が逆なので、この名前があります。
逆指値注文は東証の機能ではなく各証券会社のサービスで、使えない証券会社もあります。条件に達したときに成行で売る設定にした場合、成行注文は売買の成立を優先する注文なので、値動きが大きいと指定した値段より安い値段で売れることがあります。
東証では、前日の終値などを基準に1日の値動きの幅(制限値幅)が決まっていて、その下限まで下がることを「ストップ安」といいます。ストップ安の値段でその日の終値が決まる場合、注文の状況によっては、注文数量の多い証券会社から1単位ずつ割り当てる「ストップ配分」が行われ、売り注文がすべて成立するとは限りません。逆指値注文を置いていても、急落した日に指定した値段で売れるとは限らない点を知っておきます。
株式投資の売買単位や税金、NISAの成長投資枠の基本は、こちらの記事で説明しています。
値動きの振れ幅を分散と長期投資で抑える考え方は、こちらの記事にまとめています。
出典
- 株価を動かす要因ってなに?(日本証券業協会「投資の時間」、金融経済教育推進機構サイト内) https://www.j-flec.go.jp/links/jikan/qa/029.html
- 決算短信はどうやって見られるの?(日本証券業協会「投資の時間」) https://www.j-flec.go.jp/links/jikan/qa/034.html
- 有価証券報告書はどうやってみられるの?(日本証券業協会「投資の時間」) https://www.j-flec.go.jp/links/jikan/qa/035.html
- No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除(国税庁) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1474.htm
- No.1476 特定口座制度(国税庁) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1476.htm
- No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)(国税庁) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1463.htm
- No.1331 上場株式等の配当等に係る申告分離課税制度(国税庁) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1331.htm
- NISAを知る(金融庁 NISA特設ウェブサイト) https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/know/index.html
- よくある質問(金融庁 NISA特設ウェブサイト) https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/question/index.html
- 社会人として知っておきたいお金の話(若手層社会人向け)(金融経済教育推進機構) https://j-flec.go.jp/wpimages/uploads/%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E4%BA%BA%E3%81%A8%E3%81%97%E3%81%A6%E7%9F%A5%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%8A%E3%81%8D%E3%81%9F%E3%81%84%E3%81%8A%E9%87%91%E3%81%AE%E8%A9%B1%EF%BC%88%E8%8B%A5%E6%89%8B%E5%B1%A4%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E4%BA%BA%E5%90%91%E3%81%91%EF%BC%89%EF%BC%886.7MB%EF%BC%89.pdf
- ポートフォリオのリバランスのタイミングを教えてください(日本証券業協会「投資の時間」) https://www.j-flec.go.jp/links/jikan/qa/062.html
- 用語集「ナンピン」(日本取引所グループ) https://www.jpx.co.jp/glossary/na/528.html
- 用語集「逆指値注文」(日本取引所グループ) https://www.jpx.co.jp/glossary/ka/107.html
- 用語集「ストップロスオーダー」(日本取引所グループ) https://www.jpx.co.jp/glossary/sa/240.html
- 株式の注文方法にはどんな種類があるの?(日本証券業協会「投資の時間」) https://www.j-flec.go.jp/links/jikan/qa/023.html
- 制限値幅(日本取引所グループ) https://www.jpx.co.jp/equities/trading/domestic/06.html
- 用語集「ストップ高・ストップ安」(日本取引所グループ) https://www.jpx.co.jp/glossary/sa/238.html
- 用語集「ストップ配分」(日本取引所グループ) https://www.jpx.co.jp/glossary/sa/239.html
よくある質問
- 損失を翌年に繰り越すには何が必要ですか
- 損失が出た年に、上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除用の付表などを付けて確定申告をします。その後も、株を売らなかった年を含めて、毎年連続して確定申告をする必要があります。繰り越せるのは翌年以後3年間です。
- NISAで値下がりした株を売ると、枠はいくら戻りますか
- 売った株を買ったときの金額(簿価)の分が、翌年以降に戻ります。50万円で買って30万円で売った場合、戻るのは50万円分です。ただし、損失を税金の計算で使うことはできません。
- 源泉徴収ありの特定口座なら、確定申告はいりませんか
- 同じ口座の中の売却損益と、その口座で受け取った配当の相殺は、証券会社が行います。ほかの証券会社の口座の損益と相殺する場合や、損失を翌年以降に繰り越す場合は確定申告が必要です。
- 逆指値注文はどこの証券会社でも使えますか
- 使えるとは限りません。逆指値注文は取引所の機能ではなく証券会社のサービスで、扱っていない証券会社もあります。口座のある証券会社で、条件と注文の出方を確かめます。
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カリフォルニア州立大学ロングビーチ校卒業後、NTTPCコミュニケーションズでシステムエンジニアとして金融機関等のシステム運用などに携わる。2009年、株式会社エニドアを創業し代表取締役に就任。クラウドソーシングサービスの開発・提供を行う。M&Aにより会社を売却後、上場企業のグループ会社の経営を6年行った後、株式会社modoを創業し代表取締役に就任。家族向けのサービスmemStockの開発を行う。 二級ファイナンシャル・プランニング技能士、証券外務員一種を保有。2児の父。
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