契約は3億件、持ち歩くのは1.9枚 — クレジットカードの現在地

サブスクの決済エラーを知らせるメールが届いて、手が止まる。どのカードで登録したのか、すぐには出てこない。財布を開いても、そこに答えはありません。
クレジットカードを選ぶとき、比較サイトに並んでいるのは還元率と年会費です。けれど数か月後の自分が困るのは、たいてい別のところでした。公的な統計を並べてみると、数えている単位が、それぞれ違っていることが分かります。
契約は3億件、持っているのは2.7枚
日本クレジット協会の統計では、日本のクレジットカードの契約数は2025年12月末で3億524万件でした。263社から集計した数字で、単位は「件」です。枚数でも、持っている人の数でもありません。
JCBの調査では、保有者が持っているカードの平均は2.7枚でした。そのうち実際に持ち歩いているのは1.9枚です(2025年9月調査、保有者n=2,970)。どちらも前年から0.1枚減っています。
同じ調査で、「1番多く使うカード」の利用は月平均15.6回・8.7万円でした(利用者n=2,852)。支出はほぼ1枚に集まっています。
この4つは、それぞれ別の主体が、別の単位で数えたものです。3億524万件を人口で割ることも、2.7枚と掛け合わせることもできません。並べて分かるのは、契約は残り、持ち歩く枚数は減り、支出は1枚に寄る、という三方向の動きが同時に起きていることです。
同じJCBの調査には、世帯の月平均生活費18.1万円のうち46%がクレジットカード払い、という数字もあります(保有者n=2,970)。調査結果から計算すると8万円台になり、さきほどの8.7万円と近い水準です。ただし前者は世帯の生活費に占める割合、後者は個人が持つ主力1枚の利用額で、母集団も単位も違います。別の数え方をした2つが、たまたま同じくらいの規模に着地した、というところまでです。
「不正利用」という言葉の中身は、10年で入れ替わっていた
同じ協会が、不正利用の被害額を長期で公表しています。2015年の被害額は120.9億円。内訳は偽造カードが23.1億円(19.1%)、番号の盗用が72.2億円(59.7%)でした。
2025年は510.5億円です。偽造カードは7.2億円(1.4%)、番号の盗用は475.4億円(93.1%)。偽造は構成比でも絶対額でも減り、番号の盗用は6.6倍になり、総額は4.2倍になりました。
構成比だけを見れば偽造が減った話にしか読めず、総額だけを見れば全部が増えた話にしか読めません。両方を並べて、ようやく被害の形が入れ替わったと言えます。
被害そのものは、直近では減りはじめています。過去最高だったのは2024年の555.0億円で、2025年はそれより44.5億円少ない510.5億円でした。2025年の四半期推移は193.2億円、121.4億円、102.0億円、93.9億円と、年内を通して下がり続けています。
年明けの2026年1〜3月は113.6億円で、このときの不正利用発生率は0.033%でした。発生率は「被害額 ÷ クレジットカードショッピング信用供与額 × 100」と協会が定義しています。
なお、これらは主要事業者から集めた数字で、海外で発行されたカードの分は含まれません。年次の系列は40社、四半期の表は48社(2026年6月現在)と、対象社数も違います。年と四半期をまたいで増減を語ることはできない数字です。
番号の盗用が93.1%ということは、被害のほとんどが、カードは財布に入ったまま起きているということになります。持ち歩く枚数を減らしても、この形の被害には届きません。
選んでいるのは、番号をどこに置くかということ
協会の統計には、契約からの経過年数の内訳もあります。2025年12月末時点で、入会から10年以上経った契約が1億1,973万件、全体の39.2%。3年未満は25.4%でした。一度作った契約は、思っているより長く残ります。
動画配信、ネットスーパー、習い事の月謝、学用品の購入、ふるさと納税。番号を預ける先は、世帯の人数と生活の幅に応じて増えていきます。どこに何を登録したかを全部そらで言える人は、あまりいません。カードそのものは引き出しの奥にあっても、番号のほうは今日も生きています。
「何枚持つか」を数えても、この部分は数えたことになりません。数えるのは、番号の置き場所のほうです。
ただし、その登録先が世の中にいくつあるのかを集計した統計は見当たりませんでした。ここは数字で語れません。各家庭が自分で数えるしかない部分です。
枚数そのものとの付き合い方については、以前ポッドキャストでも話しています(お得なクレジットカードは不自由の始まり?自分に合った使い方とは)。今回はその外側にある、番号と明細の話です。
率で選んだあと、家計に残るのは額
JCBの調査では、1番多く使うカードを選んだ理由の1位は「ポイント・マイルを貯めやすい」で42%でした。次いで「年会費が安い(無料を含む)」が29%、「発行会社が安心・信頼できる」が17%です(利用者n=2,852)。多くの人が率で選んでいます。
そのポイントの原資について、経済産業省の資料に整理があります。キャッシュレス推進検討会のとりまとめ(2025年12月26日公表)は、カードを発行する会社が「インターチェンジフィー等の収入から、『ポイント費用』、『決済インフラ費用』、『システム費用』、『人件費』等を負担」すると書いています。
この図の表題は「クレジットカード会社のコスト構造(中小加盟店の例)」で、加盟店手数料1.98〜3.25%、インターチェンジフィー0.5〜2.3%という数値が並びます。ただし図には「数値は例」という注記が付いています。加盟店手数料は加盟店と契約先の交渉で決まるとも、インターチェンジフィーの範囲は中小加盟店以外も含むとも書かれていて、言い切れる数字ではありません。
ここから言えるのは、率という数字の性質だけです。率は支払った額に比例して増えるもので、支払う額そのものを動かすものではありません。家計に残るのは額のほうです。
止まったときに何が止まり、明細が誰に見えるか
支払いを1枚に集約すると、明細は一か所にまとまります。その代わり、そのカードが使えなくなった日に、世帯の支払いが同時に止まります。分けておけば同時には止まりませんが、明細が分かれて、全体を見ている人が誰もいない状態になりやすくなります。
どちらが正しいかを示す統計はありません。ここは各世帯が、止まった日に何が困るかを想像して決めるところです。子どもの習い事の月謝と、光熱費と、通勤定期が同じ1枚に乗っているかどうか。それだけでも、答えは家ごとに変わります。
家族カードについては、区別しておきたいことがあります。家族カードは、家族本人の名義で発行される別のカードです。本会員のカードを家族に手渡して使ってもらうこととは違います。日本クレジット協会は「クレジットカードは他人に貸してはいけません」と明記していて、たとえ家族といえども貸したり借りたりはできないと説明しています。
明細が世帯で見えることの意味も、お互いを見張ることではありません。協会は利用明細の確認を「トラブルや番号盗用など、不正利用の早期発見・拡大防止のための最大の近道で最強の手段」と書いています。被害の9割超が番号の盗用である以上、明細は気づくための場所です。
気づいたあとの補償については、カード会社の会員規約によって定められています。条件は一律ではないので、手元の規約を読んでおくのが確実です。
「どこに何が登録されているか」が世帯の誰の頭にも入っていない。この状態はカードに限りません。家族向けのコミュニケーションアプリ memStock の開発でも、家族の大事なことは決まった置き場所を持たないまま流れていく、という問題に何度も行き当たりました。カードの番号も、そうやって流れていきます。
数える単位を、率から置き場所へ
還元率も年会費も、比べれば違いは出ます。それは1枚のカードについての違いで、世帯の支払いがどこにどう置かれているかとは、別のものを数えた数字です。
契約は3億524万件あり、持っているのは2.7枚、持ち歩くのは1.9枚、支出が乗るのは1枚。被害の93.1%は、カードが手元にあるまま番号だけで起きています。ここまで並べると、選ぶときに見ておく先は、カードの表面よりも登録先の一覧のほうだと思えてきます。
新しいカードを作る前でも、作ったあとでもかまいません。番号がどこに登録されているかを、世帯で一度並べてみる。それだけで、次に決済エラーのメールが届いた日の手が、少し早く動きます。
本記事の数値は、2026年8月末時点で公表されている日本クレジット協会・経済産業省・株式会社ジェーシービーの資料によります。不正利用の統計は主要事業者ベースで集計されたもので、海外で発行されたカードの分を含みません。統計は更新されることがあります。
よくある質問
- クレジットカードの不正利用はどうやって起きているのか?
- 2025年の被害の93.1%は番号の盗用です。カードが財布に入ったままで発生しており、持ち歩く枚数を減らしても防げません。
- 複数枚持つのに実際に使うのは1枚だけなのはなぜ?
- 保有は平均2.7枚ですが、支出が集中するのはほぼ1枚です。複数枚を実際に使い分ける人は少数派になっています。
memStock編集部
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