視力検査の紙の裏は「受診報告書」— 医師が選ぶ選択肢の一番目は「経過観察」

九月のはじめ、子どもが学校から持ち帰るプリントの中に「視力検査結果のお知らせ」が混じっていることがあります。左右の欄にAからDの記号が書かれ、その下に眼科の受診をすすめる一文。裏面は、受診したあとに学校へ提出する用紙になっています。
仕事を終えて封を開け、明日どこの眼科を探すかを考えはじめる。毎年そういう順番で届く紙ですが、これは「目が悪くなった」という結論ではありません。何を確かめるための紙なのかを、公的な資料から順に見ていきます。
「過去最多」は、どの年度の話なのか
裸眼視力1.0未満の子どもの割合が過去最多、という報道を覚えている方もいるはずです。あれは令和6年度(2024年度)の学校保健統計の話でした。小学校36.84%、中学校60.61%、高等学校71.06%と、三つの学校段階すべてが最大値でした。
令和8年2月13日に公表された令和7年度の学校保健統計では、小学校36.07%、中学校59.35%と、小・中はいずれも前年より下がっています。最大値を更新したのは高等学校の71.51%だけでした。「過去最多」は、いまの最新値には当てはまりません。
文部科学省が付けた但し書きも、一緒に読む必要があります。令和2年度から令和5年度の数値は、新型コロナの影響で調査時期の異なる数値を含むため、他の年度とは比較できないと明記されています。この4年分は「去年より増えた」という読み方が成立しません。
比べられるのは、それより前の年度との差です。小学校は平成27年度が30.97%でした。文部科学省自身は「約40年前と比べて増加傾向にあります」と書いています。
もうひとつ、この統計が数えているのは「裸眼視力1.0未満」であって「近視」ではありません。文部科学省の啓発資料によると、裸眼視力1.0未満のうち近視にあたるのは約8割から9割です。残りは乱視や遠視、目を使いすぎたことによる一時的な調節の緊張です。
タブレットのせいなのか
学校ではひとり1台の端末が配られ、家にはゲームとスマートフォンがあります。原因はそこか、と考えるのは自然です。
文部科学省は令和3年度から「児童生徒の近視実態調査」を続けています。参加を希望した29校、約8,900人を対象に、眼軸長(目の奥行き)まで測った調査です。その結果を保護者・教員向けにまとめた資料には、「学校以外での電子機器の利用について、一律に視力低下や近視の新規発症に関連が大きいとはいえませんでした」と書かれています。そのうえで、勉強や読書の時間の結果も踏まえ、長時間の近業に気を付けることを予防のかなめに挙げています。
近業とは、近くを見続ける作業のことです。ここで見られているのは機器の種類ではなく、近い距離を見続ける時間そのもので、紙の本でも問題集でも同じ、という整理になります。
学校での使い方について、厚生労働省 e-ヘルスネットに眼科専門医の説明があります。学校の授業は黒板を見ることが多く、ICT機器を使う授業でも手元の画面ばかりを見続けないよう配慮がなされている。一方で「自宅や塾での近業は、視線を遠くに逸らすことがほとんどありません」。学校より家庭のほうが、視線を遠くに移す機会が少ないという指摘です。
家庭で置ける目安として、文部科学省と日本眼科医会はそろって「対象から30cm以上離す」「30分に1回は20秒以上目を休める」を挙げています。ただ近視実態調査で家庭のルールを尋ねたところ、半数から7割以上の児童生徒が「ルールは決めていない・決めたが守られていない」と答えていました。守られていない家のほうが多数派、というのが実情です。
外で過ごす時間は、木陰でもいい
近視の話でよく出てくるのが屋外時間です。ここは資料によって強さが違います。
文部科学省の近視実態調査では、休み時間にいつも外に出る子どもは、ほとんど外に出ない子どもと比べて視力低下との関連が小さいことが「示唆されました」と書かれています。ただし資料には「各解析について、学年以外の因子は考慮されていないため、留意が必要です」という注記が付いています。もともと外で遊ぶ生活だった子とそうでない子の違いまでは分けられておらず、外に出れば視力が戻る、という結果でもありません。
厚生労働省 e-ヘルスネットで眼科専門医は「屋外活動は、近視の発症を予防することが科学的に証明されています」「1日2時間の屋外時間を確保することが望ましいです」と、より踏み込んだ書き方をしています。言われているのは、すでにある近視が治ることではなく、発症を予防するという話です。
とはいえ平日に外遊びの時間を作るのは簡単ではありません。文部科学省の啓発資料には、そこへのQ&Aがあります。
建物の影や木陰で過ごしても効果があるか、という問いへの答えは「効果があります」。直射日光が当たらない木陰でも、近視の予防に必要な明るさ(1,000〜3,000ルクス以上)は確保できるとされています。日差しの強い場所は熱中症や紫外線への配慮が要るため、木陰などで過ごすとよい、とも書かれています。
1日2時間に満たなくてもよいか、という問いには「1日2時間以下の屋外活動でも近視の進行抑制に効果が得られる可能性が示唆されています」と答えています。学校の休み時間、登下校、習い事の待ち時間。すでにある時間を数えてみると、ゼロではないはずです。
紙が届いてから、何が起きるのか
学校の視力検査は、学校が任意でやっているものではありません。学校保健安全法施行規則で健康診断は毎学年6月30日までと定められ、視力もその項目です。同じ規則の第9条には、結果を21日以内に本人と保護者へ通知する、とあります。夏前後に紙が来るのは、この規定によります。
判定の意味は、文部科学省のウェブサイトに掲載された「視力検査結果のお知らせ」の標準様式にあります。Aは1.0以上、Bは0.9〜0.7、Cは0.6〜0.3、Dは0.3未満。様式はこれを教室での見え方で説明していて、Cには「教室後方からは黒板の字が見えにくいことがあります」、Dには「教室の前列でも黒板の字が見えにくいです」と書かれています。
様式の案内文は「左右どちらか片方でも1.0未満(B〜D)であった場合は、できるだけ早めに医師の診察、指導を受けられることをお勧めします」。「要再検査」という言葉ではなく、受診をすすめる案内です。
では受診したらどうなるのか。同じ様式には、医師が記入して学校に返す「受診報告書」も付いています。
「今後の方針」の選択肢は六つで、その一番目が「経過観察」です。以下、調節緊張の治療、教室内の座席配慮が望ましい、眼鏡の処方、コンタクトレンズの処方、その他と続きます。眼科に行ったら必ず眼鏡になる、という組み立てにはなっていません。
三番目の「教室内の座席配慮」は、家庭から言い出しにくく感じる項目かもしれません。ただ施行規則第9条は、健康診断後に学校がとる措置として「机又は腰掛の調整、座席の変更及び学級の編制の適正を図ること」を挙げています。席を前にしてほしいという相談は、制度の側があらかじめ想定している措置です。
すでに通院して結果が分かっている場合は、受診報告書にその旨を書いて提出すればよい、とも様式にあります。
眼鏡を何歳から考えるかについては、公的な資料に年齢の基準が見当たりませんでした。日本弱視斜視学会は「黒板の字が見えにくくなったら、眼鏡で矯正する必要があります」と書いています。基準は年齢ではなく、教室で見えているかどうかに置かれています。
ふるい分けであって、診断ではない
日本眼科医会の資料に、学校健診の性格をそのまま書いた一文があります。
学校における健康診断は,児童生徒等という集団を対象とするスクリーニングであり,詳細な臨床検査を基にした確定診断を目的とするものではない。
同じ資料には、疑われたことが本人と家族に与える心理的影響にも配慮すべきだとも書かれています。紙が届いた時点では、まだ何も確定していません。確かめるために眼科に行き、「経過観察」で戻ってくることもある。紙はその入口です。
文部科学省の啓発資料は、一度伸びた眼軸長を元に戻すことはできないと言われている、と書く一方で、近視が眼鏡などで矯正すれば視力が出るものとして扱われてきたことも記しています。見えにくさは矯正できる範囲にあり、そのうえで進み方をゆるやかにする話をしている、という順番です。
学校の検査は年に一度です。その間の変化に気づけるのは家にいる時間のほうで、文部科学省の子ども向け資料も、こんなことがあったら家の人に伝えてほしい、として三つを挙げています。
黒板の字が見えにくい。目を細めないと遠くの文字が読みにくい。ぼやけて見えたり、重なって見えたりする。
家族のあいだで交わされる情報を扱うサービスをつくっていると、こういう一言ほど、その日のうちに流れて消えると気づかされます。冷蔵庫に貼ったままの紙をもう一度めくって、判定の欄と裏面の用紙が何を尋ねているのかを見ておく。それだけでも、次に何かを言われたときの受け止め方は変わるはずです。
本記事は2026年9月時点の公表資料によります。お子さんの目の状態や受診の判断については、眼科医にご相談ください。
memStock編集部
memStock編集部は、家族の豊かな暮らしと家計管理を応援する記事制作チームです。ライフハック・節約・投資・保険など、日常生活とお金に関する実用的な情報を、確かな専門知識と多様な視点から分析・提供しています。読者の皆様が抱える日々の悩みや将来への不安を解消し、ワンランク上の生活を実現するためのヒントが詰まった記事をお届けします。 「家族の暮らしをより豊かに」をモットーに、わかりやすく実践的なコンテンツで皆様の人生設計をサポートします。


