母子手帳のアプリ化は今どこまで?

妊娠がわかって市区町村に届け出ると、母子健康手帳を受け取ります。健診のたびに持ち歩く手帳がスマホに入れば、と考える家族は多いはずです。2026年10月時点で、国が進める「電子版母子健康手帳」は、まだ全国で交付が始まった段階ではありません。こども家庭庁は2026年3月にガイドラインを出し、2026年度中にモデル事業の地域で実証したうえで、2026年度末以降、環境が整った自治体から順に導入を進める想定です。
一方で、健診結果の一部をマイナポータルで見る、妊娠の届出や児童手当の請求をオンラインで行うといったデジタル化は、すでに使える自治体があります。電子版の仕組みと導入の時期、いま使える手続き、家族で決めておきたいことを順に見ていきます。
紙の母子健康手帳が担ってきたこと
母子健康手帳は、母子保健法第16条に基づき、市町村が妊娠の届出をした人に交付するものです。こども家庭庁のガイドラインは、手帳を「妊娠、出産及び育児に関する一貫した健康記録であるとともに、乳幼児の保護者に対する育児に関する指導書」と位置づけています。妊娠中の経過から乳幼児健診の結果までが1冊にまとまり、住んでいる自治体以外の医療機関でも、見せれば同じ様式の記録を共有できる点が紙の強みでした。
同じガイドラインは、紙の制約も挙げています。転居や時間の経過で必要な情報が変わっても更新できない、手帳を持っている人のところでしか記録を確認できない、健診のたびに問診票と手帳に同じ内容を書く負担がある、紛失や汚損のおそれがある、といった点です。
民間の母子手帳アプリはすでにあり、自治体が導入して通知や健診の予約に使っている例もあります。ただガイドラインは、こうしたアプリの多くは受診や予防接種の際に医療機関で記録や閲覧ができず、利用者が紙の手帳から健診結果を手入力する必要があるなど、紙の母子健康手帳を代替できる状況ではないと整理しています。
国の電子版母子健康手帳の仕組み
国の方針は、2024年6月の「デジタル行財政改革取りまとめ2024」で示されました。電子版母子健康手帳を原則とすることを目指し、2024年度から課題を整理し、2025年度にガイドラインなどを出して、2026年度以降の普及につなげるという工程です。同じ2024年6月には、第14次地方分権一括法で母子保健法が改正され、PMHに関する規定が整えられました。2026年3月のガイドラインはこの工程に沿ったもので、「2026年度以降の普及」は、2026年度中の実証と年度末以降の順次導入という形で進んでいます。
電子版母子健康手帳は、紙で交付する代わりに、手帳に記録される情報を情報連携基盤「PMH(Public Medical Hub)」に保管し、アプリなどを通じて利用者、医療機関、自治体が入力・参照できるようにするものです。PMHはデジタル庁が2023年度に開発したシステムで、自治体、医療機関、住民の間で母子保健情報を共有する役割を持ちます。
| 項目 | ガイドライン(2026年3月)の内容 |
|---|---|
| 交付を受けられる人 | マイナンバーカードを持ち、マイナ保険証などの利用者に限る |
| 本人確認 | 公的個人認証サービスで行う |
| 保管する情報 | 府令様式の26様式に、任意様式の6様式を加えた計32様式 |
| 保存期間 | 妊産婦または乳幼児が死亡した後5年まで |
| アプリの選択 | 希望する自治体では、複数の利用者向けアプリを提供することも可能 |
| 導入の時期 | 2026年度中に実証し、2026年度末以降、環境が整った自治体から順次 |
記録の持ち主の考え方も紙とは変わります。紙の手帳では母と子の情報が1冊にまとまっていますが、電子版では、母に紐づく情報は母本人、子に紐づく情報は子本人が保有主体になります。出生直後の健診などの情報はいったん母の領域に保存し、子のマイナンバーが発行された後に子の領域へ引き継ぐ「母子連結」の仕組みが設けられます。
導入の条件は厳しく設定されています。ガイドラインは、ある自治体が交付を始めるには、住民が手帳を使うと想定される管内外の全ての関係機関で、電子版の入力や参照に対応できる環境が整っている必要があるとしています。電子機器を使えない住民が取り残されないよう、健診結果の入力の代行や記録の印刷、紙の手帳の併用などの工夫も求めています。
いま使えるデジタルの手続き
電子版の手帳を待たなくても、使えるものはあります。ガイドラインによると、2020年度から、妊婦健診や乳幼児健診などの母子保健情報の一部を、マイナポータルを通じてスマートフォンなどで見られるようになりました。
デジタル庁は、PMHを使った予防接種・母子保健分野の先行実施事業を、希望する自治体向けに始めています。予診票や問診票を事前にスマホで入力し、マイナンバーカードを接種券や受診券として使えるようにするものです。マイナポータルから接種や受診を勧め、接種履歴や健診結果をマイナポータルで確認できるようにすることも目指しています。
子育ての届出では、マイナポータルからオンラインで申請できる手続きに、妊娠の届出、出生届(生まれた日から14日以内に提出)、児童手当等の認定請求などがあります。ただし、オンラインで申請できるかどうかは市区町村によって異なります。妊娠がわかった段階で、住んでいる自治体の対応をマイナポータルで確かめておくと、出産前後の手続きを窓口とオンラインのどちらで行うか決めやすくなります。
家族で決めておきたいこと
電子版では、本人以外の家族がどう記録を見るかが課題になります。紙の手帳には「父親や周囲の方の記録」や「保護者の記録」の欄があり、母だけでなく父親などが書き込むことも想定されていました。電子版ではマイナポータルの代理人機能を使い、父や祖父母などが母の任意代理人として、また父母などが子の法定代理人または任意代理人として登録し、閲覧や入力をする仕組みが予定されています。
母の情報には、子や他の家族に知られたくない機微な情報が含まれることもあります。ガイドラインは、母の代理人が見られる範囲を母がマイナポータルで制限できる機能や、母から子へ引き継ぐ情報の範囲を母が選べる仕組みを予定しています。健診の結果などは個人情報保護法上の要配慮個人情報に当たるため、PMHでの利用や保管には本人の同意を取ることになっています。
転居や里帰りの予定がある家庭は、転居先の対応も確認が必要です。電子版を扱う自治体から紙の手帳だけを扱う自治体へ転出しても、PMHには転出時点までの情報が残り、本人はアプリなどで引き続き参照・入力できます。転出元の自治体は、電子版の情報をPDFやXML/CSVでダウンロードしたり印刷したりできる機能を確保することになっています。
電子版が使えるようになっても、紙の手帳と併用する期間はしばらく続きます。誰がマイナンバーカードで本人確認をして健診に付き添うのか、父親や祖父母をどこまで代理人にするのか、記録を印刷して手元に残すのか。妊娠の届出の前後に、夫婦で手帳の扱い方を話しておくと、電子版を選べる時期が来たときに迷わずに済みます。
妊娠・出産・子育てで使える支援制度の一覧はこちらにまとめています。
マイナンバーカードと電子証明書の有効期限の違いはこちらで整理しています。
出典
- 電子版母子健康手帳ガイドラインの発出について(令和8年3月31日)・電子版母子健康手帳ガイドライン(こども家庭庁) https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/909390f5-d0c0-47b9-9b9e-c343b88bde66/dbf17e98/20260331_policies_boshihoken_techou_24.pdf
- 自治体・医療機関等をつなぐ情報連携システム(Public Medical Hub:PMH)(デジタル庁) https://www.digital.go.jp/policies/health/public-medical-hub
- マイナポータルでできる子育て関連手続(デジタル庁ニュース) https://digital-agency-news.digital.go.jp/articles/2024-10-31
よくある質問
- 電子版の母子健康手帳は、いつから使えますか
- こども家庭庁は2026年度中にモデル事業の地域で実証し、2026年度末以降、環境が整った自治体から順に導入を進める想定です。2026年10月時点では、住んでいる自治体が導入しているかどうかを自治体に確かめる必要があります。
- 自治体の母子手帳アプリを使えば、紙の手帳はいりませんか
- いります。ガイドラインは、現状の民間の母子保健アプリは医療機関で記録や閲覧ができないことが多く、紙の母子健康手帳を代替できる状況ではないとしています。アプリは予防接種の通知などの補助として使い、記録は紙の手帳にも残しておきます。
- マイナンバーカードがないと電子版は使えませんか
- 使えません。ガイドラインでは、電子版の交付はマイナンバーカードを持ち、マイナ保険証などの利用者に限られます。電子版に対応できない住民には紙の手帳の併用などで対応するよう、ガイドラインは自治体に工夫を促しています。
- 父親もスマホで記録を見られますか
- マイナポータルの代理人機能を使い、父親などが代理人として登録して閲覧・入力する仕組みが予定されています。母の情報については、代理人が見られる範囲を母が制限できる機能も予定されています。
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