相続準備のリアル。調査で見えた「家族を思う気持ち」と行動の壁

昨今、相続の備えは多くの人にとって無視できないテーマとなっています。特に、大切な「家族」の視点からこの問題を捉え直すと、どのような現実が見えてくるのでしょうか。弁護士法人東京新宿法律事務所が公表した、50歳以上の男女約1,500人を対象とした最新の調査結果[1]をもとに、相続と家族のリアルな関係性を掘り下げていきます。
現代の日本社会では、団塊の世代が後期高齢者となり、その子ども世代であるジュニア世代も50代に差しかかるなど、相続が現実的な課題となる家庭が増えています。さらに、2024年からは不動産の名義を亡くなった人から相続人へ変更する「相続登記」が義務化されるなど、制度面でも大きな変化がありました。こうした背景から、相続は誰にとってもより身近な問題になっていると言えるでしょう。
準備の最優先は「お金」より「家族の和」
しかし、こうした状況にもかかわらず、実際に相続の準備に着手している人はどのくらいいるのでしょうか。調査によると、準備を「始めている」または「一部始めている」と回答した人は、合計でわずか21.9%にとどまりました。これは、裏を返せば約8割もの人々がまだ何も手をつけていないという現状を示しており、想定よりも少ないと感じる方も多いかもしれません。この背景には、後述するように、法律や制度の複雑さが「難しい」と感じさせ、最初の一歩をためらわせている可能性が考えられます。
では、実際に準備を始めた人たちは、相続において何を最も大切にしているのでしょうか。ここで、非常に示唆に富む結果が明らかになりました。最も重視する項目として第1位に挙がったのは、「家族・親族間でトラブルが起きないこと」で、その割合は34.9%に達しました。これは、第2位の「金銭的負担の最小化(26.4%)」を上回る結果です。つまり、多くの人々がお金のメリット以上に、何よりもまず「家族の和」を維持したいと強く願っているのです。この点は、家族を大切に思う多くの読者にとって、深く共感できるポイントではないでしょうか。
行動の裏にある思いと、立ちはだかる現実の「壁」
この「トラブルを避けたい」という強い思いは、具体的な準備行動にもはっきりと反映されています。調査で尋ねた準備内容のトップ3は、1位が「財産の確認」、2位が「家族との話し合い」、そして3位が「相続に関する情報の収集」でした。ここで特に注目すべきは、2位の「家族との話し合い」が1位と僅差で、非常に高い割合を占めている点です。これは、財産を把握するという実務的な作業と並行して、トラブル防止の要となる家族間の対話を極めて重視していることの表れです。人々の「大切にしたいこと」と「実際の行動」が、きちんと連動していることがこの結果から見て取れます。
人々が重い腰を上げ、相続準備を始める「きっかけ」についても興味深いデータが出ています。最も多かったのは「自身の健康や年齢を意識したため」で、68.2%と圧倒的でした。そして、2位には「家族や親族の影響」が41.8%で続いています。自身の年齢や健康状態はもちろんのこと、配偶者やお子さんといった身近な家族の存在や状況が、具体的な行動を促す大きな要因となっているようです。
一方で、準備を進める上では様々な「壁」も存在します。難しさを感じる点として最も多く挙げられたのは、「法律や制度に関する理解」で23.9%でした。やはり、専門的な内容は多くの人にとってハードルが高いと感じられるようです。前述の相続登記の義務化のように、新しいルールが導入されたり、手続きが複雑化したりすると、余計に分かりにくさを感じてしまうのも無理はありません。このほかにも、「手続きにかかる時間や手間」や「知識不足」といった回答が続いており、制度そのものの複雑さが大きな障壁となっている実態が伺えます。
「相談相手がいない」という、見過ごせないジレンマ
そして最後に、非常に考えさせられるデータとして「相談相手」に関する調査結果をご紹介します。家族や親族に相談相手が「いる」と答えた人は33.9%でしたが、その一方で、「いない」と答えた人が実に29.4%にも上ったのです。これは、準備を始めている人の約3割が、身近に相談できる相手がいないと感じていることを意味します。一番に「家族のトラブル回避」を願っているにもかかわらず、そのための相談ができないというこの状況は、少し心配になるのではないでしょうか。
専門家、例えば弁護士や税理士に相談できるという人も16.1%にとどまっています。この背景には、家族の円満を願うからこそ、かえってお金にまつわる話を切り出しにくい、あるいは、どう話せばよいか分からないといった、心理的なジレンマが存在するのかもしれません。愛情があるからこそ、逆に問題から目をそらしてしまう。そうした良かれと思っての行動が、意図せずして将来のリスクを高めてしまう可能性も否定できないのです。
これらの調査結果から見えてくるのは、多くの人が「家族の円満」という温かい願いを抱きながらも、それを現実に形にするための具体的な知識やコミュニケーションの術との間に、埋めがたいギャップが存在するのではないか、という実態です。家族との話し合いが重要であることは誰もが理解していても、「では具体的に、いつ、誰と、何を、どう話せば円満に進められるのか」という問いに答えるのは、容易ではありません。そこが、この問題の最も難しい核心部と言えるでしょう。
家族を大切に思うからこそ、相続というテーマに対して、その伝え方や準備の進め方について、もう少し深く考えてみること。それこそが、本当に家族を守るための、次の一歩になるのではないでしょうか。
memstock編集部
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