待遇の違いには、説明できる理由が要る — 2026年10月の改正を、家庭の側から読む

働き方・扶養と税memStock編集部(更新: 2026年9月8日
待遇の違いには、説明できる理由が要る — 2026年10月の改正を、家庭の側から読む

パートや契約社員として働いていると、契約の更新のたびに、会社から一枚の書面を受け取ります。2026年10月1日から、その書面に一行が加わります。厚生労働省が示しているモデル様式では、こう書かれています。「次の窓口に対して通常の労働者との間の待遇の相違(内容・理由)等について説明を求めることができる。」

そのあとに続くのは、部署名・担当者職氏名・連絡先の空欄です。誰に聞けばいいのかが、名前で書かれることになります。10月に給料の額が動くわけではありません。それでも、共働きの家計にとっては目を留めておく価値のある変化です。

変わったのは法律ではなく、その下のルール

2026年10月1日に施行されるのは、パートタイム・有期雇用労働法の施行規則(省令)と、2つの告示・指針の改正です。法律の条文そのものが書き換わったわけではありません。厚生労働省も「ルールが変わります」という言い方をしています。公布は2026年4月28日でした。

厚労省は改正のポイントを3つに整理しています。ひとつめが、雇い入れ時に会社が書面で伝える事項の追加。ふたつめが、同一労働同一賃金ガイドラインへの待遇の書き込み。みっつめが、待遇の違いをどう説明するかという、雇用管理上の措置の具体化です。

ここに、誤解しやすい点がひとつあります。「待遇の違いについて説明を求める権利」は、今回できたものではありません。パートタイム・有期雇用労働法第14条第2項として、すでに存在しています。同一労働同一賃金の仕組みは2020年4月から順次施行され、中小企業を含めて全面施行されたのは2021年4月です。

新しく生まれたのは、その権利があることを会社が書面で知らせる義務のほうです。

聞けるようになった、のではありません。聞けることが、書面に書かれるようになった。今回の改正の芯は、そこにあります。

対象は、パートタイムで働く人、有期契約で働く人、そして派遣で働く人です。会社の規模による適用除外はありません。「うちは小さい会社だから関係ない」は当てはまらない、ということです。

一方で、無期雇用のフルタイム、いわゆる正社員はこの法律の対象ではありません。線引きは会社の大きさではなく、雇用形態のほうにあります。

書面が届くタイミングにも注意が要ります。10月1日を境に、全員へ新しい通知書が配られるわけではありません。有期契約の人は契約を更新するたびに、パートの人は新しく雇い入れられるときに受け取ることになります。

いま無期のパートとして働き続けている人には、この改正だけを理由とした書面が自動的に届くわけではありません。ただし、説明を求められること自体は以前から変わらず認められています。書面が来ないことと、聞けないことは別の話です。

家族手当、住宅手当、夏休み — 名前が書かれたことの意味

ふたつめの改正は、同一労働同一賃金ガイドラインへの追記です。退職手当・無事故手当・家族手当・住宅手当・夏季冬季休暇・褒賞の6つが、新たに書き込まれました。このうち褒賞を除く5つは最高裁の判決を踏まえたものだと、厚労省のQ&Aが説明しています。

意味が分かりやすいのは、改正前後の文面の差です。改正前のガイドラインには「この指針に原則となる考え方が示されていない退職手当、住宅手当、家族手当等の待遇」という一文がありました。判断のよりどころがない待遇の代表例として、名指しされていたわけです。

改正後、その名指しは消えました。手当そのものが、本文の項目として書き込まれたからです。

家族手当については、「労働契約の更新を繰り返している等、相応に継続的な勤務が見込まれる短時間・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の家族手当を支給しなければならない」と書かれました。日本郵便(大阪)事件の最高裁判決を踏まえたものだとされています。

ここは丁寧に読む必要があります。パートなら誰にでも家族手当が出るようになる、という話ではありません。条件は「相応に継続的な勤務が見込まれる」こと。その年数の基準は示されておらず、契約の期間や更新の回数などを踏まえて個別に判断されるとされています。

「同一の家族手当」も、同額という意味ではありません。所定労働時間が短い人にも全く同額を支給しなければならないのか、という問いに対し、厚労省のQ&Aは、ガイドラインは原則となる考え方を示したものであり、待遇の性質や目的に照らして各社が決めることになる、と答えています。ガイドラインは、支給を自動的に発生させる仕組みではないということです。

住宅手当も、範囲が限られています。書き込まれたのは「転居を伴う配置の変更の有無に応じて支給されるもの」について。転勤の有無と関係なく配られている住宅手当は、この項目が直接扱うものではありません。夏季冬季休暇のほうは、「短時間・有期雇用労働者にも、通常の労働者と同一の夏季冬季休暇を付与しなければならない」と書かれています。

あわせて、会社が利用の便宜を図るよう配慮しなければならない、と指針に書かれた施設の例に、保育所が加わりました。小さな一行ですが、共働きの生活には近いところにある改正です。

「なぜ違うのか」と聞くのは、責めることではない

今回の改正が太くしたのは、「手当をください」という請求の道ではなく、「この違いは何を理由に決まっているのか」を聞く道のほうです。

法律が会社に求めている説明の中身は2つあります。通常の労働者との待遇の違いの内容とその理由、そして待遇を決めるにあたって考慮した事項です。金額の交渉ではなく、決め方の説明を受ける。そういう設計になっています。

説明の仕方も、10月から具体的になります。資料を使って口頭で説明するか、必要な事項をすべて書いた分かりやすい資料を渡すか。口頭で説明した場合は、使った資料も渡すことが望ましいとされました。説明を求められていない場合でも、契約更新のときなどに待遇差の資料を渡したり、説明を求められる旨を知らせたりすることが望ましい、とも書かれています。

聞くこと自体をためらう気持ちもあると思います。説明を求めたことを理由に、解雇・配置転換・降格・減給、そして契約の更新拒否といった不利益な扱いをすることは、法律で禁止されています。厚労省の通達は、不利益な取扱いを受けることへの危惧を持つことなく説明を求められる職場環境が望まれる、という書き方をしています。

説明を聞いたあとにも、道は続いている

説明義務は、納得させる義務とは違います。厚労省の通達も、労働者が納得することまでを求めるものではない、と明記しています。ただし同じ文の中で、納得性を高めるという趣旨に鑑み、誠実に対応する必要がある、とも書かれています。

それでも折り合わないときのために、公的な道が法律に用意されています。都道府県労働局長に解決の援助を求めれば、助言・指導・勧告を受けられます。紛争調整委員会による調停の仕組みもあります。援助や調停を求めたことを理由とする不利益な取扱いも、あわせて禁止されています。

入口になるのは、都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)と、全国378か所の総合労働相談コーナーです。総合労働相談コーナーは働く人からの相談も受け付けており、無料・予約不要とされています。

待遇は、もう一方の働き方にもつながっている

総務省の労働力調査によると、2025年平均で、非正規の働き方を選んだ理由に「家事・育児・介護等と両立しやすいから」を挙げた人は226万人。うち218万人が女性でした。働き方は一人で決めているようでいて、実際には家庭の時間割の一部として決まっていることが少なくありません。

だとすれば、片方の待遇がどうなっているかは、片方だけの問題では終わりません。手当が月に数千円動けば家計の前提が動きます。夏季冬季休暇の有無は、家族の予定表そのものを変えます。

家族間のコミュニケーションをテーマにしたサービスを作っていると、家の中の大事な決めごとほど、誰も切り出さないまま流れていくことに気づかされます。待遇の話も、たぶんその仲間です。忙しさのなかでは、給与明細の数字は見ても、その数字がどう決まっているかまでは話題にならない。

10月以降、パートナーが受け取る書面には、説明を求める先が名前で書かれています。それを見て「これ、どうなってるんだろうね」と一度口に出せるかどうか。改正が家庭に届くかどうかの分かれ目は、案外そのあたりにありそうです。

本記事は2026年8月時点で公表されている情報によります。改正の内容や運用の詳細は、厚生労働省の公表資料および勤務先の就業規則等でご確認ください。個別の待遇についての判断は、都道府県労働局 雇用環境・均等部(室)や総合労働相談コーナーなどの専門の窓口にご相談ください。

よくある質問

2026年10月からパート・契約社員の待遇がどう変わるのか?
待遇差の説明を求める権利があることが書面に明示されるようになります。待遇そのものは変わりませんが、説明請求の道が正式化されます。
パートタイマーにも家族手当が支給されるようになるのか?
条件付きです。労働契約の更新が相応に繰り返されている場合、通常労働者と同一の家族手当支給が原則とされます。
待遇差について説明を求めると不利益を受けるのではないか?
いいえ、法律で禁止されています。解雇、配置転換、降格、減給、契約更新拒否など、説明要求を理由とした不利益扱いはできません。
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memStock編集部

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