10月1日、学校にとって保護者は「顧客等」になります

生活/暮らしmemStock編集部
10月1日、学校にとって保護者は「顧客等」になります

職場で「カスタマーハラスメント」の研修を受けた人は、この一年で増えたはずです。10月1日から、その防止措置が全事業主の義務になります。学校も、その事業主です。そして学校に対しては、保護者のほうが「顧客等」の側に立ちます。

10月1日から義務を負うのは、教育委員会と学校法人です

2025年6月11日に公布された改正法(令和7年法律第63号。労働施策総合推進法などの一部改正)で、カスタマーハラスメントを防ぐ措置が事業主の義務になりました。施行日は2026年10月1日。厚生労働省のリーフレットの表題は「事業主の皆さまへ(全企業が対象です)」で、中小企業の猶予期間は置かれていません。

学校も、職員を雇う事業主です。義務を負うのは担任でも学校でもなく、学校設置者——公立なら教育委員会、私立なら学校法人です。保育園やこども園も、運営する事業主が同じ法改正の対象に入ります。ただし文部科学省のガイドラインが扱うのは学校で、保育所や認定こども園は所管が別です。

では「顧客等」とは誰か。措置の内容を定めた厚生労働省の告示(令和8年厚生労働省告示第51号)にはこうあります。

施設の利用者(駅、空港、病院、学校、福祉施設、公共施設等の施設を利用する者をいい、今後利用する可能性のある者も含む。)

例示には「施設・サービスの利用者及びその家族」という一行もあります。学校を利用するのは子どもで、その家族が保護者です。職場では守られる側にいる人が、学校に対しては顧客等の側に回ります。

罰則の話も先にします。保護者個人に罰則が定められたわけではなく、改正法にある20万円以下の過料は、事業主の報告義務違反に対するものです。措置を怠った事業主への対応も、助言・指導・勧告から公表という順で、刑事罰ではありません。

文科省が保護者に出した、A4一枚のお願い

2026年8月28日、文部科学省は学校設置者向けの「学校と保護者・地域住民等とのより良い関係構築のためのガイドライン」と、保護者・地域住民向けのA4一枚の資料を公表しました。家庭に配られる可能性があるのは後者、「保護者・地域住民の皆様へ 学校とのより良い関係構築にご協力ください」です。

書き出しは、禁止でも警告でもありません。

学校と保護者や地域住民等は、いずれも児童生徒等一人一人の健やかな成長を支える共通の立場にあるパートナーです。

その上で、四つのお願いが並びます。

適切な表現・声量/怒鳴るなどの行動はお控えください 適切な要求/学校ができないこともあることを御理解ください 適切な時間内の御相談/御相談は定時内に 過度に長時間の御相談はお控えください SNSでの拡散/先生や子供を傷つけるSNS投稿はお控えください

見出しはどれも「お願い」で、義務や禁止の形ではありません。そして「定時内に」の「定時」が何時から何時なのかは、この一枚にも、ガイドライン本体にも書かれていません。学校や自治体が示す時間帯を見るほかありません。

ガイドラインには、文部科学省の委託事業によるアンケートも載っています。令和7年11月から12月に、「行政による学校問題解決のための支援体制の構築に向けたモデル事業」に採択された11自治体の公立学校563校に聞いたところ、42.6%にあたる240校が、その年度中に過剰な苦情や不当な要求等を受けたと答えました。ただしこの調査でいう「過剰な苦情・不当な要求等」は、ガイドラインの「社会通念上許容される範囲を超えた言動」とは意味が違います。ガイドライン自身も「対象が限定された調査ではあるものの」と断って紹介しています。

訴えの中身だけでは、カスハラに当たりません

ガイドライン第2章には、具体的な場面が三つ載っています。CASE 1は、「担任が十分に指導できていないせいだ。納得がいかないので、担任を交替しろ!!」と担任に怒鳴りつけ、執拗に電話をかけ、校長との面会を何度も申し入れる、という設定です。ガイドラインが最初に書くのは、次の一文です。

担任の指導に納得がいかないという訴えだけでは「保護者等の社会通念上許容される範囲を超えた言動」には当たらないと考えられます

ガイドラインは、担任に怒鳴りつけたことを「威圧的な言動」に、学校に執拗に電話をかけたことを「継続的、執拗な言動」に当てはめました。訴えの内容そのものは、どの類型にも当てはめていません。

第5章にはもう一段はっきりした一文があります。「正当な申入れについては、当該言動には該当せず」。厚生労働省の告示にも、苦情のすべてがカスタマーハラスメントに当たるわけではない、と書かれています。

では何を見て判断するのか。ガイドラインは、言動の目的、経緯や状況、態様・頻度・継続性、教職員の心身の状況などから総合的に考えるとしています。九つの類型は示されていますが、これは「限定列挙ではない」と本文に明記されています。「この言い方ならセーフ」という一覧を作ることは、原典のほうが否定しています。

判断の材料には、学校の側の事情も入ります。

学校設置者又は教職員の側の不適切な対応が当該言動の原因や背景となっている場合があることにも留意する

いじめについては別の扱いです。ガイドラインは、いじめの事実確認や被害を受けた児童生徒への支援がいじめ防止対策推進法に基づく義務だとした上で、「法に基づく対応は徹底されなければなりません」と書いています。いじめを訴えることが言いにくくなる、という話ではありません。

「担任を替えてほしい」はどう扱われているのか

九つの類型のうち「対応が著しく困難な又は対応が不可能な要求」の例には、「クラス替えや担任の変更・退職を求めること」が入っています。一方でCASE 1は、まさに担任の交替を求める場面について「訴えだけでは当たらない」と書いている。

この二つは矛盾していません。困っていることを相談として伝えるのと、学校が応じられない要求として押し通すのが、書き分けられているためです。「授業についていけていない」という事実のほうは、学校が向き合う対象に入ります。ガイドラインは第2章の冒頭でも、学校に寄せられる意見や要望に「真摯に向き合い、教育活動の充実・改善に生かしていく必要があります」と書いています。

なお、この類型には「いじめが背景にある場合は、事実確認をしたうえ、適切に対応することが必要です」という注が付いています。

仕事終わりにしか連絡できない家庭は、どうすればいいのか

三つ目の場面は、共働きの家庭に近いはずです。隣の席の子にちょっかいを出されて勉強に集中できない。「自分の仕事終わりに学校で担任と校長に会わせろ!席替えをさせるまで帰らない!」と、教職員の勤務時間外に学校を訪ね、応接室に居座る——これがCASE 3です。

ガイドラインの判断は、訴えそのものは当たらない、居座りと、勤務時間外の面会の強要が「拘束的な言動」に当たる、というものでした。類型に挙がるのは「強要」「居座り」「頻繁に長時間」です。勤務時間外に一度電話をかけること自体を挙げた記述は、ガイドラインにも保護者向けの一枚にもありません。

10月以降、学校の側の動き方も変わります。ガイドラインは、教職員を一人で対応させないこと、必要に応じて管理職が代わること、学校だけで抱えずに教育委員会や学校法人と連携することを挙げています。面談時間をあらかじめ決めておく例や、断りを入れた上で録音する例もあります。保護者が教職員を無断で録音・撮影することのほうは、九つの類型に例示されています。

一方で、10月から保護者向けの相談窓口が新しくできるわけではありません。義務づけられている相談体制は「教職員からの相談に適切に対応するため」のものだからです。

保護者が使える窓口は、この法改正とは別に前からあります。文部科学省の24時間子供SOSダイヤル(0120-0-78310)は24時間・年中無休で、悩んでいる子供や保護者等が対象と明記されています。法務省のこどもの人権110番(0120-007-110、平日8時30分〜17時15分)は、子どもに関する悩みを持つ大人も相談できます。

伝える先を、担任ひとりにしないために

10月1日を境に動くのは、保護者が学校に何を言えるかではありません。学校の側が、寄せられた声を担任個人で抱えずに受け止める形に移るところです。怒鳴らずに、決まった時間に、学校ができる範囲を踏まえて伝える限り、要望はこれまでどおり伝えられます。

そうは言っても、話せるのが夜しかない家庭はあります。連絡帳に書くのか、朝の送りで一言添えるのか、夫婦のどちらが窓口になるのか。決めないままだと、気になったその晩に思いついたほうが連絡することになり、話が長くなりやすい。家族のあいだの連絡を扱うサービスを作っていると、伝える中身よりも「誰がいつ言うか」が決まっていないことのほうが、行き違いの元になると感じます。

学校から一枚の紙が届いたら、最後まで読んでみてください。書かれている時間帯が分かれば、次に相談したいことができたとき、いつ連絡するかで迷わずに済みます。

制度の内容は2026年9月16日時点で公表されている資料によります。各学校・自治体の運用は、配布物や学校からの案内でご確認ください。

出典

よくある質問

学校に要望を伝えると、カスタマーハラスメントになるのですか
要望を伝えること自体は対象になりません。厚生労働省の告示は、社会通念上許容される範囲で行われたものは「正当な申入れ」であってカスタマーハラスメントには当たらない、と書いています。文部科学省のガイドラインも、担任の指導に納得がいかないという訴えだけでは当たらないとしたうえで、怒鳴ること、執拗に電話をかけることを類型に挙げています。判断は、言動の目的、経緯や状況、態様・頻度・継続性などから総合的に行うものとされ、九つの類型も「限定列挙ではない」と明記されています。
「定時内に」の定時とは、何時から何時までですか
保護者・地域住民向けの資料は「御相談は定時内に」と書くだけで、具体的な時刻を示していません。ガイドライン本体にも時刻の記載はありません。教職員の勤務時間は自治体や学校によって違うため、学校から配られる案内や学校ホームページの連絡先の表示で確かめることになります。
保護者に罰則はありますか
保護者個人への罰則は定められていません。10月1日に始まるのは、事業主である学校設置者が雇用管理上の措置を講じる義務です。措置を怠った事業主には助言・指導・勧告があり、勧告に従わない場合は公表されます。改正法にある20万円以下の過料は、事業主が報告をしなかったり虚偽の報告をしたりしたときのものです。
いじめについて強く申し入れるのも対象になりますか
いじめへの対応は、いじめ防止対策推進法に基づく学校と学校設置者の義務です。ガイドラインは、いじめの事実確認や被害を受けた児童生徒への支援について「法に基づく対応は徹底されなければなりません」と書いています。担任の変更を求めることが挙げられている類型にも、「いじめが背景にある場合は、事実確認をしたうえ、適切に対応することが必要です」という注が付いています。
10月から、保護者の相談先は増えるのですか
増えません。義務づけられる相談体制は「教職員からの相談に適切に対応するため」のものです。保護者が使える窓口は、この法改正とは別に以前からあります。文部科学省の24時間子供SOSダイヤル(0120-0-78310)は24時間・年中無休で、悩んでいる子供や保護者等が対象です。法務省のこどもの人権110番(0120-007-110、平日8時30分〜17時15分)は、子どもに関する悩みを持つ大人も相談できます。
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