長期保有を促す株主優待の増加が意味するもの

お金の話memstock編集部(更新: 2026年3月25日
長期保有を促す株主優待の増加が意味するもの
*この記事は、制度やお金の仕組みを分かりやすくまとめた「一般情報」です。正しさや最新かどうかは、必ず国や金融機関などの公式情報でご確認ください。投資は元本が保証されず、損をする可能性もあります。個別の判断が必要な場合は、金融機関や税理士などの専門家にご相談ください。

近年、株主優待制度に変化の兆しが見え始めています。その代表例が、株式の長期保有を条件とする優待の増加です。

ソフトバンクは4月、株主優待制度を新設し、100株以上を1年以上保有する株主を対象にPayPayポイントを贈呈すると発表。セブン&アイ・ホールディングスも同月、保有株式数や継続保有期間に応じて商品券などを付与すると明らかにした。3年以上の継続保有株主をより優遇する。

[出典]株主優待の新トレンド、条件は長期保有-持ち合い解消後の安定層期待 - Bloomberg

このような動きは、単なるトレンドではなく、日本の株式市場の構造的変化を反映したものと言えるでしょう。

本稿では、長期保有型の株主優待が増えている背景と、その影響について考察します。

安定株主確保のための施策

持ち合い解消がもたらした影響

ニッセイ基礎研究所によれば、上場企業の持ち合い株式比率は長期にわたって下降傾向をたどり、23年3月時点で平均5.51%となっている。

[出典]株主優待の新トレンド、条件は長期保有-持ち合い解消後の安定層期待 - Bloomberg

かつて日本企業の間では株式の持ち合いが広く行われており、安定株主の役割を果たしていました。しかし、バブル崩壊後の株価下落や企業統治改革の影響で、持ち合いは大幅に解消されてきました。

その結果、株主構成が大きく変化し、株価の不安定化につながっています。

長期保有を条件とする優待の狙い

大和IRの調べでは株主優待を実施する企業のうち、株式の一定期間以上の保有を条件にした長期優待実施企業の割合は昨年9月時点で38.5%。この比率は過去10年で4倍以上に拡大した。

[出典]株主優待の新トレンド、条件は長期保有-持ち合い解消後の安定層期待 - Bloomberg

持ち合い解消によって失われた安定株主を補うため、多くの企業が長期保有株主を優遇する優待制度の導入に乗り出しているのです。株主に長期的な視点を促すことで、株価の安定化を図る狙いがあります。

また、長期保有を条件とすることで、優待にかかるコストを抑制する効果も期待できます。すべての株主に一律の優待を提供するよりも、条件を満たす一部の株主に限定した方が、負担は軽減されるからです。

市場と投資家への影響

長期投資の促進

長期保有型の優待が増えることで、投資家に長期的な視点を持つインセンティブが働きます。株式市場の短期志向が問題視される中、株主優待が個人投資家の行動変容を促す可能性があります。

保有期間が長くなれば、企業のファンダメンタルズをより重視するようになるでしょう。結果として、株価の過度な変動が抑えられ、市場の健全性が高まることが期待されます。

流動性低下のリスク

一方で、長期保有を促すことで株式の流動性が低下するリスクもあります。株主が優待目的で長期間株式を保有すれば、市場に出回る株数は減少します。

特に、個人投資家の比率が高い銘柄では、この傾向が顕著に表れる可能性があります。流動性の低下は、株価発見機能の毀損につながりかねません。

企業は、長期保有株主を増やすメリットと、流動性を維持するバランスを考える必要があるでしょう。

従来型優待との比較

投資家のメリットとデメリット

従来型の株主優待は、一定の株数を保有していれば、誰でも受け取ることができました。一方、長期優待は一定期間の保有を条件とするため、投資家にとってはハードルが上がります。

しかし、長期保有のメリットとして、優待の内容が充実している点が挙げられます。購入金額に応じた割引券など、従来型よりも魅力的な特典が用意されているケースが多いのです。

投資家としては、収益の安定性などを見極めた上で、長期保有に踏み切るかどうかを判断する必要があります。

企業の負担軽減

長期優待は、企業にとって優待コストを抑えるメリットがあります。全ての株主に一律の優待を提供するのではなく、長期保有株主に限定することで、支出を最小限に留めることができるのです。

従来型の優待では、株主の入れ替わりが激しいと、優待コストが膨らむリスクがありました。長期優待を導入することで、このようなリスクを軽減できると期待されています。

ただし、長期保有株主を増やすために魅力的な特典を用意する必要があるため、単純にコストが下がるわけではありません。優待の設計には、慎重な検討が求められます。

株主優待制度をめぐる議論

本来の株主還元との整合性

そもそも株主優待制度は、本来の株主還元の在り方と整合的なのでしょうか。投資家に還元するなら、配当や自社株買いの方が望ましいとの指摘もあります。

株主優待は、一種のマーケティング施策としての側面を持っています。自社製品やサービスの利用を促すことで、顧客の囲い込みを図る狙いがあるのです。株主還元というよりも、宣伝広告の一環と捉えるべきかもしれません。

とはいえ、個人株主の拡大には一定の効果があったことも事実です。長期的な支援者を増やすという意味では、株主優待にも一定の意義があると言えるでしょう。

受益者の公平性

もう一つの論点は、株主優待による恩恵が一部の投資家に偏っている点です。そもそも株主優待を受けられるのは、一定数以上の株式を保有できる富裕層に限られます。

さらに長期優待では、数年にわたって株式を保有し続けられる投資家のみが特典を得られることになります。一時的な余剰資金で株式を保有する投資家は、優待の恩恵から外れてしまうのです。

株主平等の原則に照らせば、一部の株主のみが優遇されるのは問題だと言えるかもしれません。

ただし、株主優待はあくまでも企業の任意の施策です。各社の判断で、優待のあり方を決められるのが原則と言えるでしょう。一律の基準を求めるのは難しい面があります。

持ち合い解消後の株主構成

機関投資家の保有比率増加

持ち合い株式が解消されたことで、機関投資家の保有比率が高まっています。彼らは長期的な観点から企業価値の向上を求める傾向にあります。

長期保有を条件とする株主優待の増加は、このような株主構成の変化にも対応したものと言えます。機関投資家との対話を重視し、信頼関係の構築を目指す企業が増えているのです。

もっとも、機関投資家は優待よりも、企業のパフォーマンスを重視するでしょう。長期優待だけでは、機関投資家を引き付けるのは難しいかもしれません。

外国人投資家の存在感

近年、外国人投資家の保有比率も高まっています。彼らは日本の商慣行には馴染みがないため、株主優待に魅力を感じない可能性があります。

むしろ、業績連動の報酬など、グローバル基準に則った施策を求める声が大きいと言えます。長期優待を設計する際には、外国人株主の視点を意識する必要もあるでしょう。

今後の展望

導入企業の増加

大和インベスター・リレーションズ(大和IR)によると、株主優待を実施する企業の総数は、2019年に約1521社で頭打ちして以降、ほぼ横ばいとなっている。

[出典]株主優待の新トレンド、条件は長期保有-持ち合い解消後の安定層期待 - Bloomberg

長期優待の割合は高まっているものの、株主優待制度自体の導入企業数は頭打ちの状況です。今後、他社の動向を見ながら、長期優待の導入を検討する企業が増えていくことが予想されます。

ただし、自社の状況を見極めた上での判断が求められるでしょう。長期保有の条件設定には、慎重な検討が必要です。

株主優待の行方

長期保有型の株主優待は、今後も増え続ける可能性が高いと考えられます。一方で、株主優待制度自体の是非をめぐる議論も根強く残るでしょう。

株主還元の在り方は、各企業の状況に応じて多様であるべきです。長期優待はあくまでも選択肢の一つに過ぎません。自社の株主構成や財務状況等を踏まえた上で、最適な施策を模索していく必要があります。

株主優待は、日本の株式市場の特殊性を象徴する制度と言えるかもしれません。長期保有の促進は、新たな局面を迎えた日本株の行方を占う上で、重要なポイントになりそうです。

おわりに

長期保有を条件とする株主優待の増加は、日本の株式市場が構造的な変化に直面していることを示しています。持ち合い解消後の不安定な状況を打開するため、長期志向の株主を求める動きが広がっているのです。

もちろん、株主優待制度自体については、議論の余地が残されています。株主還元の在り方や、受益者の公平性など、考えるべき論点は少なくありません。

しかし、長期保有を促すことで、企業と投資家の関係をより安定的なものにする効果は期待できるでしょう。株主優待は、新たなフェーズに入ったと言えるかもしれません。

今後、長期優待の導入企業がさらに増加するのか。株式市場にどのような影響を及ぼすのか。注目すべきトレンドの一つと言えそうです。

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この記事を書いた人

memstock編集部

memStock編集部は、家族の豊かな暮らしと家計管理を応援する記事制作チームです。ライフハック・節約・投資・保険など、日常生活とお金に関する実用的な情報を、確かな専門知識と多様な視点から分析・提供しています。読者の皆様が抱える日々の悩みや将来への不安を解消し、ワンランク上の生活を実現するためのヒントが詰まった記事をお届けします。 「家族の暮らしをより豊かに」をモットーに、わかりやすく実践的なコンテンツで皆様の人生設計をサポートします。

この記事を監修した人

山田 尚貴

カリフォルニア州立大学ロングビーチ校卒業後、NTTPCコミュニケーションズでシステムエンジニアとして金融機関等のシステム運用などに携わる。2009年、株式会社エニドアを創業し代表取締役に就任。クラウドソーシングサービスの開発・提供を行う。M&Aにより会社を売却後、上場企業のグループ会社の経営を6年行った後、株式会社modoを創業し代表取締役に就任。家族向けのサービスmemStockの開発を行う。 二級ファイナンシャル・プランニング技能士、証券外務員一種を保有。2児の父。

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