子育て世帯の生命保険の選び方

子どもが生まれたときや家を買ったときに、生命保険を考え始める家庭は少なくありません。ところが見積もりを取ると「死亡保険金3,000万円」「5,000万円」といった金額が先に示され、その根拠が分からないまま月々の保険料だけを比べてしまいがちです。
死亡保障の額は、家族が受け取れる遺族年金、住宅ローンの団体信用生命保険、配偶者の収入などを差し引いてから決めるものです。この記事では、遺族年金の額と2028年4月に予定されている見直し、必要保障額の計算のしかた、死亡保障の保険の種類、保険金と解約返戻金の税金を、日本年金機構・厚生労働省・国税庁などの資料をもとに整理します。数値は2026年10月時点で確認できたものです。
必要保障額は「遺族の支出から収入を引いた残り」
生命保険文化センターの「生命保険の契約にあたっての手引」は、死亡保障の必要額の目安を、遺族の支出見込額から収入見込額と自己資産を差し引いた不足分として説明しています。式にすると次のとおりです。
必要保障額 = 遺族の支出 −(遺族年金 + 死亡退職金・弔慰金 + 貯蓄 + 配偶者の収入)
支出には、遺族の生活費、子どもの教育費、住居費、葬儀費用などが入ります。差し引く側でいちばん大きくなりやすいのが遺族年金で、亡くなった人が会社員か自営業かで額が大きく変わります。死亡退職金や弔慰金は勤務先の規程によって有無も額も違うため、退職金規程などで確かめておきます。
住宅ローンがある家庭は、団体信用生命保険(団信)に入っているかも確認します。住宅金融支援機構の説明では、団信の加入者が死亡または所定の高度障害状態になった場合、残りの住宅ローンは全額弁済されます。団信に入っていれば、ローン残高の分を生命保険で別に用意する必要はありません。逆に団信に入っていない場合は、住宅を相続した人が債務を引き継いで返済を続けることになります。
遺族年金はいくら受け取れるか
公的な遺族年金には、国民年金から出る遺族基礎年金と、厚生年金から出る遺族厚生年金があります。
遺族基礎年金を受け取れるのは、亡くなった人に生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」です。ここでいう子は、18歳になった年度の3月31日までの子か、20歳未満で障害等級1級・2級の状態にある子を指します。2026年4月分からの額は、子のある配偶者(昭和31年4月2日以後生まれ)が受け取る場合で年847,300円に子の加算額を足した額です。子の加算額は1人目と2人目が各243,800円、3人目以降は各81,300円です。
亡くなった人の側には保険料の納付要件があります。死亡日が令和18年(2036年)3月末日までで、亡くなった人が65歳未満であれば、死亡日の前々月までの直近1年間に保険料の未納がなければよいことになっています。
会社員や公務員など厚生年金に入っていた人が亡くなった場合は、遺族厚生年金が上乗せされます。額は亡くなった人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3です。在職中に亡くなった場合などは、厚生年金の加入期間が300月(25年)に満たなくても300月とみなして計算するため、若くして亡くなった場合でも額が極端に小さくはなりません。
受け取る順位は、子のある配偶者と子が最上位です。現行制度では夫が受け取るには55歳以上という条件があり、子のある妻または子のある55歳以上の夫が受け取っている間は、子には遺族厚生年金は支給されません。
自営業やフリーランスなど国民年金だけに入っていた人が亡くなった場合、遺族厚生年金はありません。遺族基礎年金も子が18歳の年度末を過ぎると終わるため、会社員の家庭より必要保障額は大きくなります。国民年金の第1号被保険者期間がある人が亡くなった場合は、別に寡婦年金や死亡一時金を受け取れる場合があります。
2028年4月から遺族厚生年金が変わる
2025年6月13日に成立した年金制度改正法で、遺族年金の見直しが決まりました。厚生労働省の資料では、遺族年金の見直しの施行日は2028年(令和10年)4月1日です。
中心になるのは遺族厚生年金の男女差の解消です。18歳未満の子のない20〜50代の配偶者を原則5年の有期給付の対象とし、60歳未満の男性を新たに支給対象とします。女性で施行直後に有期給付の対象になるのは、18歳年度末までの子がいない、2028年度末時点で40歳未満の人です。有期給付の額は新たな加算で今の遺族厚生年金の約1.3倍になり、5年が過ぎた後も、障害の状態にある人や収入が十分でない人は継続給付を受けられます。
子育て中の家庭への影響は限られます。厚生労働省は、既に遺族厚生年金を受給している人、60歳以降に受給権が発生する人、18歳年度末までの子を養育する間の給付内容、2028年度に40歳以上になる女性は、今回の見直しの影響を受けないと説明しています。子がいる場合は子が18歳年度末になるまで現行と同じで、その後さらに5年間は増額された有期給付と継続給付の対象になります。
あわせて、遺族基礎年金の子の加算額が増えます(厚生労働省の説明で年間約23.5万円から28万円)。親と生計を同じくしているために子の遺族基礎年金が止まる規定も見直され、子が受け取りやすくなります。どちらも施行は2028年4月の予定です。
保険の設計で影響を受けるのは、子どもが独立した後の配偶者の生活費です。今30代の親が亡くなった場合、子が18歳になった後の遺族厚生年金は5年の有期給付と、収入に応じた継続給付になる見込みです。その時期の生活費を保険で用意するかどうかは、配偶者の働き方とあわせて考える部分です。
試算例でみる必要保障額
数字を入れて試算してみます。前提は次のとおりで、実際の額は家庭ごとに大きく変わります。
- 会社員の親が亡くなり、配偶者(昭和31年4月2日以後生まれ)と4歳・1歳の子が残る
- 亡くなった親の厚生年金は平成15年4月以後の加入のみで、加入期間は300月未満(300月とみなす)、平均標準報酬額は40万円
- 期間は下の子が18歳の年度末を迎えるまでの約17年。年金額の毎年の改定と、2028年4月からの子の加算額の増額は入れない
- 住宅ローンは団信で完済され、住居費は生活費に含める
遺族基礎年金は847,300円+243,800円×2人=年1,334,900円です。遺族厚生年金は、平成15年4月以後の加入期間の報酬比例部分(平均標準報酬額×5.481/1000×加入月数)の4分の3なので、40万円×5.481/1000×300月×3/4=年493,290円です。合計は年1,828,190円、月にすると約15.2万円になります。上の子が18歳の年度末を過ぎる15年目からは子の加算1人分が外れ、年1,584,390円です。17年間の合計は約3,035万円になります。
支出は、生活費が月25万円で17年分の5,100万円、子2人の教育費を1,000万円、葬儀費用などを200万円とおき、合計6,300万円とします。差し引く側は、遺族年金約3,035万円、配偶者の手取り月12万円の17年分で2,448万円、貯蓄400万円、死亡退職金はなしとして、合計約5,883万円です。
不足額は6,300万円−5,883万円=約417万円です。遺族年金と配偶者の収入を数えずに「生活費+教育費+葬儀費用−貯蓄」で計算すると5,900万円になり、10倍以上の差が出ます。公的保障を数えない式で保障額を決めると、保険料を払いすぎることがあります。
一方で、この試算は配偶者の収入に強く左右されます。配偶者の手取りが月8万円なら17年分は1,632万円になり、不足額は約1,233万円に増えます。共働きの家庭では、夫婦それぞれが亡くなった場合を別々に計算し、どちらの場合にいくら足りないかを出しておくと話が具体的になります。
死亡保障の保険の種類
死亡保障の保険は、期間を区切るものと一生涯続くものに大きく分かれます。
定期保険は、決めた保険期間の中で亡くなった場合に死亡保険金を受け取れる保険で、満期保険金はありません。子育て期の不足額のように、必要な期間がはっきりしている保障に合わせやすい形です。
収入保障保険は定期保険の一種で、保険期間内に亡くなると、その後契約で決めた満期まで年金の形で受け取れます。受け取れる回数は亡くなった時期によって変わり、時間が経つほど受取総額が減っていくため、子の成長とともに必要額が減っていく家庭の事情と形が近くなります。支払われるのは被保険者が死亡したときか、所定の高度障害状態になったときで、働けなくなったときの保険ではありません。
病気やケガで働けない状態が続いたときに給付を受けるのは、就業不能保険(就業不能保障保険)という別の保険で、収入保障保険と取り違えられやすい商品です。所定の就業不能状態が所定の期間続いた場合に給付され、60日などの支払対象外期間の後に受け取るタイプが多く見られます。死亡保障とは目的が違うので、両者を同じものとして比べないようにします。
終身保険は死亡保障が一生涯続きます。解約返戻金は年数とともに増えますが、保険料を払い込んでいる途中で解約すると、払込総額を下回ることがほとんどです。葬儀費用のように時期を問わず必要になるお金に充てる考え方はありますが、子育て期の大きな不足額を終身保険だけでまかなうと保険料は高くなります。
保険料を「年収の何%」で決める公的な目安はありません。保険料から決めるのではなく、不足額と必要な期間を出してから、それを満たす保険を選ぶ順番にします。
加入するときは告知義務があります。故意または重大な過失で事実を告げなかった場合は、契約が解除されて保険金を受け取れないことがあります。営業職員や代理店の担当者に口頭で伝えても告知したことにはならず、告知書か保険会社が指定した医師に対して告知します。
保険金と解約返戻金にかかる税金
死亡保険金にどの税金がかかるかは、被保険者、保険料を負担した人、受取人が誰かで決まります。夫が契約者(保険料の負担者)で被保険者、妻が受取人という形なら相続税の対象です。受取人が相続人の場合、500万円×法定相続人の数が非課税限度額になり、それを超えた部分だけが相続税の課税対象になります。
保険料を負担した人と受取人が同じ(妻が保険料を払い、夫が被保険者、妻が受取人)なら所得税の対象で、一時金で受け取ると一時所得です。保険金から払い込んだ保険料と特別控除50万円を差し引き、その2分の1が課税の対象になります。被保険者、保険料の負担者、受取人がすべて違う場合は贈与税です。収入保障保険のように年金形式で受け取る場合、相続税の対象になる契約では年金を受け取る権利に相続税がかかり、毎年の年金にかかる所得税は非課税部分と課税部分に分けて計算します。
解約返戻金は非課税だと思われがちですが、国税庁は、生命保険契約の満期や解約により保険金を受け取った場合、保険料の負担者と受取人によって所得税か贈与税の対象になると説明しています。自分で保険料を払った契約を解約した場合は一時所得で、解約返戻金から払込保険料と特別控除(最高50万円)を引いた額の2分の1を、ほかの所得と合計して税額を計算します。解約返戻金が払込保険料を50万円以上上回らなければ、課税される一時所得は生じません。
収入保障保険の選び方や受取方法の違いは、別の記事で詳しく扱っています。
保険料を払ったときの生命保険料控除は、2026年分から23歳未満の子がいる人の一般生命保険料控除が変わります。
出典
- 遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)(日本年金機構) https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/izokunenkin/jukyu-yoken/20150401-04.html
- 遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)(日本年金機構) https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/seido/izokunenkin/jukyu-yoken/20150424.html
- 遺族年金ガイド 令和8年度版(日本年金機構) https://www.nenkin.go.jp/service/pamphlet/kyufu.files/LK03-3.pdf
- 遺族厚生年金の見直しについて(厚生労働省) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00020.html
- 年金制度改正法が成立しました(厚生労働省) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00017.html
- 社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律の概要(厚生労働省) https://www.mhlw.go.jp/content/12500000/001496971.pdf
- No.1750 死亡保険金を受け取ったとき(国税庁) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1750.htm
- No.1755 生命保険契約に係る満期保険金等を受け取ったとき(国税庁) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1755.htm
- No.1490 一時所得(国税庁) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1490.htm
- No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金(国税庁) https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4114.htm
- 債務弁済の手続(住宅金融支援機構) https://www.jhf.go.jp/danshin_menu/danshin/bensai.html
- ご本人が亡くなられたとき(住宅金融支援機構) https://www.jhf.go.jp/loan/hensai/attension_honnin.html
- 生命保険の契約にあたっての手引 その1(生命保険文化センター) https://jili.or.jp/tebiki/chapter1.html
- 定期保険(生命保険文化センター) https://jili.or.jp/knows_learns/kind/main/41.html
- 収入保障保険(生命保険文化センター) https://www.jili.or.jp/knows_learns/kind/main/40.html
- 就業不能保障保険(生命保険文化センター) https://www.jili.or.jp/knows_learns/kind/main/8798.html
- 終身保険(生命保険文化センター) https://www.jili.or.jp/knows_learns/kind/main/37.html
- 万一の際に備える生命保険には、どんな種類がある?(生命保険文化センター) https://jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/1215.html
- 病歴があったのに告知するのを忘れていたら?(生命保険文化センター) https://www.jili.or.jp/knows_learns/q_a/life_insurance/146.html
よくある質問
- 遺族年金の額を自分の家庭で確かめるには?
- 遺族厚生年金は、亡くなった人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3で、加入期間や報酬によって家庭ごとに違います。手元のねんきん定期便などで加入記録を確認し、詳しい額は年金事務所に問い合わせると確実です。
- 共働きなら生命保険はいらないのでは?
- 配偶者の収入がある分、必要保障額は小さくなります。ただし保育料や家事の外注費が増える、働き方を変えざるを得なくなるといった支出の変化もあるため、夫婦それぞれが亡くなった場合について式に当てはめてから判断します。
- 収入保障保険と就業不能保険は同じものですか?
- 違います。収入保障保険は死亡または所定の高度障害状態のときに満期まで年金で受け取る死亡保障です。就業不能保険は、病気やケガで所定の就業不能状態が続いたときに給付を受ける保険です。
- 解約返戻金に税金はかかりますか?
- 自分で保険料を払った契約なら一時所得として所得税の対象です。解約返戻金から払込保険料と特別控除(最高50万円)を引いた額の2分の1が課税の対象になり、払込保険料を50万円以上上回らなければ課税される所得は生じません。
- 2028年の遺族年金の見直しで、今の保険を見直すべきですか?
- 18歳年度末までの子を養育する間の給付内容は変わりません。見直しの影響を受けるのは子どもの独立後の配偶者の生活費なので、その時期まで保障している終身保険や長い定期保険がある場合に、配偶者の働き方とあわせて確認します。
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カリフォルニア州立大学ロングビーチ校卒業後、NTTPCコミュニケーションズでシステムエンジニアとして金融機関等のシステム運用などに携わる。2009年、株式会社エニドアを創業し代表取締役に就任。クラウドソーシングサービスの開発・提供を行う。M&Aにより会社を売却後、上場企業のグループ会社の経営を6年行った後、株式会社modoを創業し代表取締役に就任。家族向けのサービスmemStockの開発を行う。 二級ファイナンシャル・プランニング技能士、証券外務員一種を保有。2児の父。
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