ピローミストで眠りは変わる?

子どもを寝かしつけたあと、ようやく自分の時間になったのに、布団に入ると頭が冴えて眠れない。そんな夜が続くと、枕に香りをつけるピローミストを試してみたくなります。
ただ、店頭やネットで見かける「ぐっすり眠れる」という言葉が、どこまで確かめられたものなのかは分かりにくいところです。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」や、厚生労働省の事業で運営されている「統合医療」情報発信サイト(eJIM)、国民生活センターの事故情報をもとに、アロマと睡眠について分かっていること、家族のいる家で使うときの注意を整理しました。
アロマの睡眠への効果は、どこまで分かっているか
eJIMは、米国の国立補完統合衛生センター(NCCIH)の解説を日本語に訳して載せているサイトです。アロマセラピーの項目では、植物から抽出した精油(エッセンシャルオイル)を香りとして吸い込んだり、薄めて肌に塗ったりして使うものと説明したうえで、不眠によく使われるものの、厳格な研究がほとんど行われていないため、有用かどうかは分かっていないとしています。レモンとラベンダーの香りを使った研究では、どちらの香りもストレスの指標に影響を与えなかったという結果も紹介されています。
睡眠障害と補完療法をまとめたeJIMのページでは、2021年に報告された16件の研究(参加者1,346例)のレビューで、不眠症の人の睡眠の質が改善することが示唆された一方、研究者はより大規模で厳密な研究が必要だと述べている、と紹介しています。ラベンダーの項目でも、アロマセラピーでラベンダーオイルを使ったときに不安などの症状に役立つかどうかは分かっていないと書かれています。
国内の睡眠ガイド2023は、寝る前のリラックス法として筋弛緩法や音楽と並べて、アロマも入眠を促し、眠りの質を高める可能性が示されていると書いています。同時に、すべての人に効果が保証されたリラクゼーション法はなく、ある人に合う方法でも、別の人にはかえって興奮を促し、眠りを妨げることもあると注意しています。
つまり、香りで寝つきが良くなる人はいるかもしれないものの、「誰でも眠れる」「不眠が治る」と言える段階ではありません。ピローミストは、自分に合うかを試すリラックス法の一つ、という位置づけで考えるのが実態に近いでしょう。
寝る前の習慣に組み込むなら
睡眠ガイド2023は、寝床に就く前の少なくとも1時間は、家事や仕事、勉強に追われずにリラックスする時間をとることを勧めています。ピローミストを使うなら、この時間の区切りとして使う形が無理のない取り入れ方です。たとえば、歯みがきを済ませて寝室の照明を落としたら香りをつける、と順番を決めておくと、寝る準備の合図になります。
香りよりも先に整えたいのが、光と温度です。睡眠ガイドは、寝室にスマートフォンやタブレット端末を持ち込まず、できるだけ暗くして寝ることが良い睡眠につながるとしています。就寝の約1〜2時間前に入浴して体を温めてから寝床に入ると、寝つきやすくなるとも書かれています。e-ヘルスネットの不眠症の解説では、寝室の温度は20℃前後、湿度は40〜70%くらいが目安です。
眠気が来ないのに無理に眠ろうとすると、かえって脳の興奮が高まります。寝つけないときは一度寝床を離れ、静かで暗めの、安心できる場所で眠気が来るまで過ごしてから戻るよう、睡眠ガイドは勧めています。香りをつけても眠れない夜に、寝床で粘り続ける必要はありません。
香りの強さとつける場所
香りの好みや感じ方は人によって違い、合わない香りは眠りの妨げにもなります。最初は少量から試し、「いい香り」と感じる程度にとどめるのが無難です。製品の表示にある使用量や使い方の目安にも従いましょう。
肌への影響にも注意が必要です。eJIMは、精油が長い時間肌に触れているとアレルギー反応や皮膚刺激が起こることがあると説明しています。柑橘系などの精油を肌に塗ってから日光に当たると、日光過敏症が起こることもあるとしています。枕に吹きつける場合は、顔や口元が直接触れる部分を避け、かゆみや赤みが出たら使うのをやめましょう。
同じ寝室で眠る家族への配慮もあります。消費者庁は、柔軟剤や香水などの香りで頭痛や吐き気といった体調不良を訴える人がいること、香りの感じ方には個人差があり、自分には快適な香りでも困っている人がいることを呼びかけています。パートナーや子どもが「におう」と言ったら、量を減らすか、使う場所を自分の枕まわりに限ると、家族の眠りを妨げずに済みます。
子どもがいる家で気をつけること
香りのする液体は、乳幼児にとって飲み物に見えることがあります。国民生活センターによると、2010年12月から2020年12月末までの約10年間に、3歳以下の乳幼児の液体芳香剤に関する事故情報が31件寄せられ、そのうち28件が誤飲・誤えんでした。高さ1mの棚に置いていた液を、背伸びして物を取ることを覚えた1歳児が口にした例もあります。アロマディフューザーの液を頭からかぶって顔が腫れた0歳児の例、温めていたアロマオイルがかかってやけどをし、入院した例も報告されています。
報告のもとになったのはリードディフューザーなどの液体芳香剤ですが、液を容器に入れて置いておく点はピローミストや精油の瓶も同じです。こうした液に含まれることのあるエタノールなどの溶剤には、粘膜の刺激作用や中枢神経の抑制作用があると説明されています。使ったら子どもの手や目が届かない場所にしまい、スプレーは子どもが寝ている寝具や子どもの近くに向けないようにしましょう。表示に「火気厳禁」とある製品は、火や熱源の近くを避けて使い、保管します。
もし子どもが飲んでしまったら、慌てて吐かせないでください。液が気管に入ると化学性肺炎を起こす危険があるためです。商品名と飲んだと思われる量を確かめ、かかりつけ医、子ども医療電話相談、救急安心センター、日本中毒情報センターの中毒110番などに相談します。目に入ったらこすらずにすぐ流水で洗い、肌についたら石けんで洗い流します。
eJIMは、ラベンダーを含む外用剤を使った子どもで乳房組織が腫れた例が数例報告されていることにも触れています(原因がラベンダーかどうかは不明)。子ども用の濃度や年齢の目安を示した公的な基準は見当たらないため、子どもの寝具に香りをつけるのは控えておくのが安全です。
「眠れる」とうたう表示の読み方
医薬品として承認を受けていないピローミストは、香りを楽しむための製品です。東京都の解説資料では、エッセンシャルオイルは空間や水の芳香付けを目的とするなら化粧品に当たらず、体への芳香付けや肌への効果をうたうものは化粧品に当たると整理しています。香りの吸入でうつの改善や食欲増進などの作用をうたうことは、問題となる表示の例に挙げられています。
医薬品医療機器等法は、承認を受けていない製品について、医薬品としての効能・効果を広告することを禁じています。2025年7月に厚生労働省が都道府県へ参考として送った睡眠関連サービスの業界団体の自主基準も、「不眠症を改善する効果があります」のように病気の名前を使って効果をうたう表現は、承認を受けていない製品の広告では使ってはならないとしています。
「不眠に効く」「睡眠障害を改善」といった言葉が並ぶ商品は、少なくとも表示のルールから外れている疑いがあります。香りの好みで選び、効き目の約束では選ばない。それが根拠に沿った選び方です。
眠れない状態が続くときは
睡眠ガイド2023は、成人の睡眠時間について、個人差はあるものの6時間以上を目安に必要な睡眠時間を確保することを勧めています。ピローミストで寝つきが良くなったと感じても、睡眠時間そのものが足りていなければ、日中の不調は残ります。
e-ヘルスネットでは、夜の不眠と日中の不調が週3日以上あり、3か月以上続く場合を慢性不眠症としています。不眠の原因はストレスや体・心の病気、薬の副作用などさまざまで、家庭での対処で効果が出ないときは専門医に相談するよう書かれています。まずはかかりつけ医に相談してみるのも一つの方法です。寝酒は睡眠の質を下げるので、眠るための手段にしないでください。
忙しい家庭でも続けやすい睡眠の習慣は、次の記事でまとめています。
出典
- 健康づくりのための睡眠ガイド2023(厚生労働省) https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf
- アロマセラピー[海外の情報](厚生労働省「統合医療」情報発信サイト eJIM) https://www.ejim.mhlw.go.jp/public/overseas/c02/15.html
- 睡眠障害[海外の情報](厚生労働省「統合医療」情報発信サイト eJIM) https://www.ejim.mhlw.go.jp/pro/overseas/c05/20.html
- ラベンダー[海外の情報](厚生労働省「統合医療」情報発信サイト eJIM) https://www.ejim.mhlw.go.jp/pro/overseas/c04/33.html
- 不眠症(厚生労働省 e-ヘルスネット) https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/heart/k-02-001.html
- 液体芳香剤の誤飲事故等に注意!(国民生活センター) https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20210408_2.html
- 液体芳香剤の誤飲事故等に注意! 報告書本文(国民生活センター) https://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20210408_2.pdf
- Vol.679 知ってください!その香り困っている人もいます(消費者庁) https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/child/project_001/mail/20260216/
- 雑貨等の広告について(薬事該当性)(東京都保健医療局) https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/hokeniryo/r5zakka
- 「睡眠ヘルスケアサービスの適正広告自主基準」について(令和7年7月17日事務連絡、厚生労働省) https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc9235&dataType=1&pageNo=1
よくある質問
- アロマのピローミストで不眠は治りますか?
- 治るとは言えません。eJIMは、アロマセラピーは不眠によく使われるものの、厳格な研究がほとんどないため有用かどうかは分かっていないとしています。不眠と日中の不調が続く場合は、香りで様子を見続けずに医療機関に相談してください。
- ラベンダーなら誰にでも合いますか?
- 合うとは限りません。睡眠ガイド2023は、すべての人に効果が保証されたリラクゼーション法はなく、人によってはかえって眠りを妨げることもあるとしています。ラベンダーを含む製品で肌にアレルギー反応が出る人がいることも、eJIMに書かれています。
- 赤ちゃんや小さな子どもがいても使えますか?
- 子どもの寝具や子どものそばでは使わず、瓶やスプレーは手の届かない場所にしまうのが安全です。子ども向けの濃度や年齢の目安を示した公的な基準は見当たりません。誤って飲んだときは吐かせずに、子ども医療電話相談やかかりつけ医などに相談します。
- 枕のどこにかければいいですか?
- 顔や口元が直接触れる部分は避け、少量から試します。eJIMによると、精油が長く肌に触れているとアレルギー反応や皮膚刺激が起こることがあります。使い方の目安は製品の表示に従ってください。
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